「人の褌で相撲をとる -Profiting at expense of others-」

 

大塚泰介(琵琶湖博物館)

 

 琵琶湖およびその集水域で,主に発表者以外の研究者が得た生態学的データを統計的に解析した結果を,オムニバス形式で報告する。

 

1.琵琶湖におけるプランクトン細菌各グループの経時変動に影響を及ぼす要因を,重回帰分析によって探索した。細菌各グループの単位時間当たり増加率を目的変数,直接効果を及ぼす可能性がある水温,各栄養塩濃度および生物の個体数を説明変数として,重回帰分析を試みた。すると,最も優占的だったα-プロテオバクテリアの増加率に対しては,繊毛虫とワムシの個体数が正の影響を,ウィルス個体数と硝酸イオン濃度が負の影響を及ぼしていたという結果になった。また,選択された説明変数は細菌のグループごとに異なっており,細菌のグループによって経時変動に影響を及ぼす要因が異なることが示唆された。

2.高島市新旭町饗庭の琵琶湖岸で産卵したフナの,種による産卵場所の違いを,多項ロジスティック回帰分析によって検討した。フナの産卵が観察されるごとに,一連の産卵場所の環境条件を記録した。同時にフナの受精卵を採集して仔魚段階まで発生させ,毎回10個体ずつをRAPD分析にかけて,その個体がニゴロブナ,ゲンゴロウブナ,ギンブナのいずれであるかを判定した。ギンブナの産卵を基準として,他2種の産卵の相対的な傾向を解析した。ニゴロブナの産卵は水深,産着深度ともに10-20cmの場所で相対的に多く,産着深度40cm以上の場所で相対的に少ない傾向が見られた。一方,ゲンゴロウブナの卵は水深80cm以上の場所で相対的に少なく,産着深度が10-20cmの場所を含むところで相対的に多かった。また,沈んだ抽水植物があるところでは相対的に少ない傾向があった。ギンブナは他2種に比べて,生きた抽水植物の根が露出したところ,およびヒシがあるところにあまり産卵しない傾向が見られた。

3.琵琶湖周辺の水田で成長したニゴロブナの成長パターンを解析した。成長曲線として一般的なBertalanffy式への近似があまり良くなかったので,Richards式への近似 に基づいた解析を行った。ニゴロブナの初期成長はたいへん速く,飼育条件下での最高レベルに匹敵するものだった。しかし体重の日成長量は15-44日齢で増加から減少に転じ,その後急激に鈍化したと推定された。算出された理論的最大体重は0.3-7.5 gで,実際のニゴロブナの最大体重よりもはるかに小さい。こうした結果になった主な原因として,ニゴロブナ稚魚の成長に伴って餌が不足したことが考えられた。そこで餌の枯渇を考慮したモデルに基づいたシミュレーションを行ったところ,実際に観測された成長パターンをほぼ再現することができた。