「海藻を主体とした沿岸の生物活動と物質循環の関連」
和田 茂樹(筑波大学・臨海実験センター)
海洋の中でも沿岸域は、人間生活に隣接した地理的特徴に加えて高い生態系サービスを有しており、人間活動にとって重要な存在である。発表者は、伊豆半島の下田臨海実験センターを主なフィールドとして、海藻の物質循環における役割の解明、沿岸酸性化の将来予測など、沿岸域を主体とした解析を行っている。今回は、海藻類の物質循環における役割について主に発表を行う。
海藻類は沿岸域を主な生息域としており、その群落面積当たりの光合成生産量は熱帯雨林にも匹敵する。そのため、沿岸域の光合成生産への寄与については、これまで多くの研究がおこなわれてきた。一方で、生態系におけるその役割を知るためには光合成生産物の行方を知ることが不可欠であるが、生産物の形態・行方について特に定量的知見は未だ蓄積されていないのが現状である。
我々はこれまで、有機物の行方の一つとして、溶存態有機物(DOM:
Dissolved Organic Matter)の放出について定性的および定量的解析を行ってきた。その結果、大型藻類は光合成のかなりの割合をDOMとして放出し、沿岸のDOMの時空間的変動の主要因の一つになりうることが明らかとなった。また、海藻から放出されたDOMの多くは微生物に分解されにくい難分解性DOMであり、海水中に炭素を貯留する機能を有することも示唆された。
この他に最近のトピックとして、海藻の生産物の中で脱離・漂流する過程で輸送される有機物量の評価も行っている。本研究では、西武北太平洋でしばしば大規模群落が観察される褐藻綱コンブ目のカジメを実験に使用したところ、脱離による輸送量が光合成の約3割程度に相当し、光合成の行方を説明する上で重要な有機物形態であることが示された。また、輸送された海藻は海底に集積し、海底の生態系の多様性の維持などに寄与することが明らかとなった。