「水域生態系におけるメタ群集の実証研究例」
山口 真奈
これまで群集生態学では、生物間相互作用(捕食、種間競争)や環境要因が群集に及ぼす影響など、局所群集内の群集動態に着目した研究が多くなされてきた。その一方で、マッカーサーとウィルソンの島の生物地理学理論や、メタ個体群の概念など、地域レベルで群集や個体群の動態を理解する試みもなされてきた。このように地域レベルで群集動態を理解することは、生息地の分断が生物群集に与える影響の評価など、保全生物学の観点からみても重要である。メタ個体群の理論を拡張し、対象を一個体群から個体群の集合体(群集)にしたものがメタ群集である。メタ群集とは、「生息地間の個体の移動分散によって相互作用している局所群集の集まり」と定義される。メタ群集には大きく分けて四つの観点があり、それぞれのモデルで生物間相互作用や環境要因、空間的異質性や分散制限が群集動態に与える影響の程度が異なる。メタ群集の研究は理論研究が先行しているものの、近年、実証研究の成果により、地域内における局所群集の空間的配置や局所群集間の移動分散が群集構造にどのような影響を与えるのか明らかになってきた。これらの研究によって、分散の程度、対象生物の分散様式、また対象システムの空間構造などによって分散が局所群集に与える影響が異なることがわかってきた。特に水域では、四つの観点のうち特にスピーシス・ソーティングやマス・エフェクトが有力なモデルとして採択されている。それに加え、分散の程度により、局所群集内やメタ群集内の種数や多様性がどのように変化するかなどについての理解も深まりつつある。今回の水域セミナーではこれらの実証研究例を紹介し、主に水域生態系におけるメタ群集研究のレビューを行う。