京都大学 生態学研究センター

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スペシャル 2015年12月8日(火)14:00~15:00

Anu K. Valtonen (Visiting Research Scholar, Center for Ecological Research, Kyoto University / University of Eastern Finland)
Effects of environmental changes on diversity, phenology and plant-herbivore interaction

The three most important anthropogenic threats to biodiversity at global scale are land-use changes, climate change and invasive species. For example, in Afrotropics, biodiversity is threatened mainly by clearing, fragmentation and degradation of tropical forests, while in Europe, habitats have been lost, e.g., via intensifying practices in agriculture and forestry. Climate change, on the other hand, is predicted to change the phenology of species, allow species’ ranges to shift poleward, change community compositions of herbivores and modify plant-herbivore interactions. I will present examples from our past work, as well as the plan of my research during the visit in CER.

第272回 2015年12月18日(金)14:00~17:00

山尾 僚(弘前大学農学生命科学部)
種間競争における植物の血縁識別の役割
Role of plant kin-discrimination in interspecific competition

動物とは異なる進化を遂げた植物は、生産者としてあらゆる生態系の基礎を成す存在である。植物は、固着性であるがゆえに環境の変化に応じて様々な可塑性を示し、その応答は他生物の群集構造や生態系プロセスにまで波及しうる。例えば、葉の被食に応じた防御形質の誘導は、植食者の群集構造を変え、落葉後の葉の分解速度も変化させる。近年、植物が、隣接する植物個体の遺伝的違いや種の違いを識別し、柔軟な応答を示すことが明らかにされつつある。本講演では、植物の識別能力と多様な応答について従来の研究をまとめ、植物が血縁個体と種間競争に対して協調的にふるまう例を紹介する。最後に、植物を巡る生物間相互作用の今後の展望について、植物の識別能力とその応答という視点から考えてみたい。

佐藤拓哉(神戸大学大学院理学研究科)
生物群集の理解における寄生者の重要性-宿主の形質改変に注目して
Toward a better understanding of ecological communities: the roles of host manipulation by parasites

寄生者は自然界に普遍的に存在し、既知の生物種の約半数を占めると言われている。それにも関わらず、寄生者の存在が生物群集や生態系過程に及ぼす影響については十分に理解されていない。本セミナーでは、寄生者が宿主の形質改変に注目して群集や生態系機能に及ぼす影響を実証した演者らの研究を紹介する。寄生者による宿主の形質改変は、寄生者やその宿主の生活史スケジュールと関連して、時間的に集中して起こされることが多い。セミナーの後半では、このことに着想を得て実施している現在の研究を紹介しながら、生態系をつなぐ資源流入の時間変動性を明示的に捉える群集研究について議論したい。

第271回 2015年11月20日(金)14:00~17:00

辰巳晋一(横浜国立大学大学院環境情報研究院)
系統情報を用いた群集集合則と生態系機能解析
Phylogenetic analyses of community assembly and ecosystem function

系統情報を使った群集集合則や生態系機能の予測が広く行われるようになってきた。例えば、実際の群集がランダムな群集と比べて高い系統的多様性を示す場合は、種間相互作用がもたらす類似制限が群集集合を規定している(近縁な種同士が似た資源をめぐって競争した結果、系統的に多様な種の集まりが形成された)と解釈される。また、系統的多様性が高いほど、資源の相補的な利用により、一次生産性や落葉分解といった生態系機能が向上すると期待される。しかしながら、このような予測は群集が平衡状態に達しているという仮定のもとで行われきた。本セミナーでは、非平衡状態における系統的多様性と群集集合則や生態系機能との関係を、簡単な理論モデルを使って紹介する。また、野外の落葉分解データを使って、分解中の落葉上における真菌群集の系統的多様性の移り変わりや、真菌群集の多様性が生態系の多機能性に与える影響について紹介する。

岩崎貴也(京都大学生態学研究センター)
日本の温帯林に生育する植物群についての比較系統地理学的研究
Comparative phylogeography for tree and herb species inhabiting in Japanese temperate forests

氷期・間氷期や地球温暖化などの全球的な環境変動は、生物の分布や適応など、様々な面で大きな影響を及ぼす。特に、過去から現在に至る分布変遷史の解明については、現在の遺伝的分化の地理的パターンから過去を復元しようとする系統地理学の枠組みにおいて、世界中で盛んに研究が行われてきた。通常、系統地理学は個々の生物種を対象にして行われることが多いが、同所的に生育する複数の生物種のパターンを比較・解析し、そこから共通パターンを検出することで、群集レベルでの一般的な分布変遷史を解明することが可能となる。この一般的な分布変遷史は、その群集に生育する全ての生物の分布変遷史、局所適応、保全などを考える際にも基礎情報として重要な意味を持つ。

本発表では日本の生物多様性の中で最大のバイオマスを占める温帯林に着目し、複数の構成樹種を用いた比較解析を行うことで、個々の種ではなく、温帯林という単位での分布変遷史の解明を試みた研究についてまず紹介する。さらに、まだ十分には研究が進んでいない温帯林の林床性草本(コンロンソウ、ミスミソウ)について、次世代シークエンサーによるRAD-Seq解析を用い、高解像度な系統地理解析を行った研究についても紹介する。最後には、これまでに得られた様々な木本・草本の系統地理研究の結果について比較を行い、日本の温帯林に生育する植物群についての一般的な分布変遷史の解明や今後の展望についても議論を行いたい。

参加レポート

スペシャル 2015年11月9日(月)14:00~

Yixin Zhang (Xi'an Jiaotong-Liverpool University, Suzhou, China)
Impacts of Disturbances on Consumer-Resource Interactions in Riverine Ecosystems

My research topics focus on ecological processes and mechanisms for understanding underlying patterns in stream ecosystems. My small-scale researches involve functional morphology, phenotypic plasticity, emergent impacts of multiple predators on prey, and consumer foraging-mode shift to study how habitat condition change influences these community properties. My large-scale researches work on stream ecology for understanding (1) the effects of trophic flows across riparian-aquatic habitats on consumer growth and benthic community assemblages, and (2) the impacts of human disturbances, such as damming and flow regulation, and land use change, on stream physical structure, biodiversity and ecosystem functioning. This presentation will introduce my previous studies relating to above topics of stream ecology in Sweden, Canada, Hong Kong, China, and USA.

Jeremy J. Piggott (Otago University, New Zealand)
ExStream: Freshwaters under Global Change

Climate change and its impacts are likely to be the dominant driver of biodiversity loss and changes in ecosystem functioning by the end of this century. But how the various drivers of climate change will interact with the multiple stressors already impacting ecosystems remains the largest uncertainty in projections of future biodiversity change. My research seeks to understand how climate and land-use related stressors interact to affect biodiversity and ecosystem function in freshwaters. In particular, I study how multiple stressors interact to create ‘ecological surprises’ in the form of complex, non-additive effects such as synergisms (amplified combined effects) or antagonisms (reduced effects). This knowledge is essential for effective freshwater management and policy, and to advancing multiple stressor theory. My investigations have pioneered the study of multiple stressors in streams using multi-factorial manipulative field experiments to disentangle complex interactive effects across multiple levels of biological organisation from genes to ecosystems. In this presentation, I will give an overview of my various projects spanning the globe and present my future plans to conduct a global experiment to disentangle the complex physiological, ecological and evolutionary processes underpinning the relationships between climate change, biodiversity and ecosystem functioning.

第270回 2015年10月16日(金)14:00~17:00

大槻 久(総合研究大学院大学 先導科学研究科)
非協力者排除の進化メカニズム:類似性と評判の効果
Mechanisms of prevention of cheaters; effects of similarity and reputation

利他行動の進化を議論する際に重要なのは非協力者排除のメカニズムである。利他行動はコストを伴うため、他者から援助を受けるが自分からは援助を与えない非協力個体は進化的に有利だと予測されるからである。本発表では二つの排除メカニズムに関する理論研究を紹介する。  前半は表現型マッチングによる非協力者排除について論じる。ハミルトンの血縁淘汰理論によれば、血縁者への利他行動は包括適応度を増加させるので進化可能である。しかし実際には注目する遺伝子座の血縁度を認識できることは稀で、別の手がかり、例えば他の表現型に類似性があるか、で血縁者を間接的に認識する機構が進化している。マウスにおけるMHCを用いた社会的パートナーの認識や、社会性昆虫における体表炭化水素を用いたコロニー個体の認識などはその例である。このような間接的な手がかりに依存した利他行動の進化条件について紹介する。  後半は間接互恵性について論じる。これは社会的評判を通じて、利他行動が第三者へと受け渡される仕組みであり、ヒトの社会行動を説明する上で極めて重要である。先行研究では、他者の評判情報を完全に利用できる場合、もしくはある確率q<1でしか利用できない場合のみを論じてきたが、実際はしばしばこのような状況は混在している場合が多い。つまり他者に自分の行動を知られやすい状況(公的状況)とそうでない状況(私的状況)の混在である。この場合の間接互恵性の成立条件について紹介する。

土畑重人(京都大学大学院農学研究科)
遺伝共分散が駆動する社会進化:血縁選択,性選択から間接相互作用まで
Social evolution driven by genetic covariance: from kin selection, sexual selection to indirect interactions in community

社会進化理論の中心となる理念は,個体の適応度が個体自身の形質のみならず,相互作用相手の形質から(へ)も影響を受けうる(与えうる)というものである.形質と適応度との共分散によって形質の進化的変化を記述するプライス方程式を弱選択仮定のもとで展開することで,形質の進化的変化は,自分自身と相互作用相手の形質が自身にそれぞれもたらす選択勾配,自身の形質の遺伝分散,および自身・相手の形質間の遺伝共分散で表現することができる.本講演ではまず,最後に挙げた遺伝共分散を軸に,性選択理論(ランナウェイ過程)と血縁選択理論との相似性について論じる.遺伝共分散がどのような生物学的メカニズムで生じるかは文脈に依存している.血縁選択理論においては,単一の形質(例えば利他性)が自身・相手双方で発現することを仮定するため,遺伝共分散は同祖遺伝子を共有する確率(血縁度の構成要素)の上昇によって生じ,性選択のランナウェイ過程においては,遺伝共分散は交配における自身と相手2つの形質の間の対応関係と,それに伴う連鎖不平衡によって生じる.講演では,社会性昆虫において2形質が関与する社会コンフリクトの血縁選択モデルを紹介するとともに,相互作用相手が他種個体である場合に,自身の形質との遺伝共分散がどのようなメカニズムで生じるかを,擬態や送粉系など,間接相互作用系における収斂進化を例に考えてみたい.

参加レポート

第269回 2015年9月18日(金)14:00~17:00

三木直子(岡山大学大学院環境生命科学研究科)
乾燥・流砂環境下に生育する樹木の水利用の仕組み
Water use mechanisms of woody species in water-limited and sand-moving environment

中国北部の鄂爾多斯(オルドス)高原に位置する毛烏素(ムウス)沙地は、乾燥環境に加えて流砂環境下にある。この地域に生育する植物の多くは、流砂により幹が砂に埋まると不定根を出すという特徴を有している。中でも、この地域の優占種であるヒノキ科のJuniperus sabina(中国名:臭柏)は常緑性で匍匐型の生活形であり、たくさんの不定根を持つ。また、本種はそのような形態的特徴から流砂を固定する効果が高く、代表的な緑化植物でもある。今回は、この種を中心に水利用の仕組み(根から葉への水輸送に関わる通水特性や、それを支える非常に独特な吸水特性や水の分配特性、そして成長)について紹介する。更に、本種と他種の分布関係などについても紹介し、このような水利用の仕組みをもつ本種の緑化植物としての可能性についても触れる。

半場祐子(京都工芸繊維大学応用生物学系)
炭素安定同位体を利用して光合成の環境応答を研究する~陸上高等植物から宇宙コケまで~
Research for environmental response of photosynthesis using stable carbon isotopes - from land higher plants to space moss -

植物の炭素安定同位体は光合成の環境応答を研究するツールとして生態学・生理学などのさまざまな分野で広く用いられている。セミナーでは光合成の環境応答について、陸上高等植物からシダ植物、コケ植物まで多様な植物を対象として私たちが行った最近の研究を紹介する。まず、光合成の重要な制限要因である葉の内部でのCO2拡散(gm)に注目し、遺伝子組換えユーカリやタバコを使って炭素安定同位体比の精密測定によりgmを解析した研究を紹介する。また、シダ植物のgmは高等植物とは異なった環境応答を示すこと、そのことには光合成機能の進化プロセスが関わっている可能性があることを紹介する。さらに、地球上とは異なる重力条件で生育したコケ植物のgmおよび光合成応答を初めて測定したところ、当初の予想とは全く異なった結果が得られたので紹介する。

スペシャル 2015年7月23日(木)14:00~

Antony N. Dodd (Visiting Research Scholar, Center for Ecological Research, Kyoto University / University of Bristol)
Signalling between plant circadian clocks and chloroplasts

Photosynthesis in chloroplasts captures the energy within sunlight to fuel plant growth and reproduction. There are circadian rhythms of photosynthesis and circadian regulation increases plant productivity (Dodd et al. Science 2005). However, there is limited knowledge of the nature of the interactions between plant circadian clocks and chloroplasts. To understand this, we are investigating the nature of the mechanisms that communicate circadian timing information and light signals between the nuclear-encoded circadian oscillator and the bacteria-like genome of chloroplasts. We have shown that in Arabidopsis, chloroplast-encoded photosynthesis genes are controlled by nuclear-encoded circadian signals, and retrograde signals arising from the chloroplast affect both the circadian oscillator and plant physiology. Our work demonstrates that circadian timing information is communicated between the organelles of plant cells.

Kentaro K. Shimizu (Visiting Professor, Center for Ecological Research, Kyoto University / University of Zurich)
Evolutionary and ecological genomics: from Arabidopsis to tropical trees in natura

Rapid advance of next-generation sequencers opened the way to analyze evolutionarily and ecologically relevant species with little prior genomic information in naturally fluctuating environments, or in natura. As a biological response to global changes, changes in abundance and distribution including extinction has been focused to produce predictable models. Growing evidence now suggests the prevalence of evolutionary and plastic changes. I would like to introduce two examples from our recent studies. Polyploidization, or genome duplication, played a critical role in the evolution of plants, fungi and animals. Artificial polyploid plants generated in the laboratories often show epigenetic variation in gene expression, DNA methylation, and visible phenotypes. However, it has been very difficult to analyze polyploid genomes and transcriptomes due to high sequence similarity among duplicated copies named homeologs. We have focused on Arabidopsis kamchatica (Fisch. ex DC.) K. Shimizu & Kudoh, which we conducted taxonomic revision. It is the allopolyploid derived from A. lyrata and A. halleri. In collaboration with bioinformaticians, a new bioinformatic workflow named HomeoRoq was developed. Our data suggest that polyploid can adapt to broader environmental niches by combining parent-specific cis-regulations. Community-level mass flowering, known as general flowering, occurs in South-East Asia at supra-annual irregular intervals. Transciptome ofShorea beccariana, Dipterocarpaceae, supported the hypothesis that drought is a trigger for general flowering.

第268回 2015年7月17日(金)14:00~17:00

小島久弥(北海道大学低温科学研究所)
生態系における物質循環と未培養微生物
Uncultured microorganisms and element cycles in ecosystems

バクテリアを始めとする多様な微生物が持つ様々な機能のなかには、各種元素循環の駆動力として重要なものが含まれる。生態系の物質循環とエネルギーの流れに大きな影響を及ぼす微生物のうち、現在までに純粋培養が得られて詳細な性質が調べられているのは、一部の例外的なものでしかない。生態系内における各種元素の動態を把握するためには、環境中の未培養バクテリアに関する理解を深めることが重要である。本セミナーでは、水界における物質循環に重大な影響を及ぼしていると考えられている微生物群を例に、未培養バクテリアの性質を探る試みについて紹介する予定である。

田辺祥子(滋賀県立大学環境科学部)
いらないものを利用するー海洋性廃棄物を利用した環境保全ー
Utilization of aquatic waste for the preservation of environment

近年,様々な海洋由来の廃棄物の増加が,世界各地で問題となっています。プラスチック類や生ごみ等の海洋への投棄といった単純な廃棄物から,人間活動や環境変動によって増えすぎ生物を,廃棄物として処理する必要性が出てきた例も見られます。これらの廃棄物は,その処理方法によっては,さらに環境を悪化することになる場合もあります。また,処理コストが高い場合,正規の手法で処理しきれない問題や,発展途上国への導入が困難であるといった問題も浮上します。そのため,環境に低負荷でかつ処理コストの低い技術の開発が課題となっています。  本講演では,海洋性食品廃棄物として大量廃棄されるホタテやカキ等の貝殻,環境変動による大量発生とその処理が問題となっているクラゲおよび海藻類の3つの廃棄物に焦点をあて,これらの有効利用法について紹介します。

第267回 2015年6月19日(金)14:00~17:00

川口正代司(基礎生物学研究所/総合研究大学院大学)
アーバスキュラー菌根共生と根粒共生の進化
The evolution of arbuscular mycorrhiza and root nodule symbioses

バクテリアを始めとする多様な微生物が持つ様々な機能のなかには、各種元素循環の駆動力として重要なものが含まれる。生態系の物質循環とエネルギーの流れに大きな影響を及ぼす微生物のうち、現在までに純粋培養が得られて詳細な性質が調べられているのは、一部の例外的なものでしかない。生態系内における各種元素の動態を把握するためには、環境中の未培養バクテリアに関する理解を深めることが重要である。本セミナーでは、水界における物質循環に重大な影響を及ぼしていると考えられている微生物群を例に、未培養バクテリアの性質を探る試みについて紹介する予定である。

金谷重彦(奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科)
ビッグ・データ・バイオロジー:医食同源と生態学の体系化に向けて
Cutting edge data science towards understanding of crude drug, food and ecosystem based on metabolomics

2009年,Jim Grayの「第4のパラダイム:データ集約型の科学的発見」がもととなって,データ・サイエンスという新たな研究分野が提案された.データ・サイエンスとは,データにもとづいて科学の分野間を横断し,現象を解析することにより,政策決定などの意思決定にまでつなぐことが目標となっている.このような分野横断型の研究対象として,地球環境,医療,ライフサイエンス,生物科学,生体医工学, センサーを介した地球観測や宇宙観測に関する分野が例として挙げられる. 本稿では,食品,生薬ならびに生態系の理解を目指し研究開発が進められているKNApSAcK Family DB (http://kanaya.naist.jp/KNApSAcK_Family/) ならびにその活用例を紹介する.

第266回 2015年5月15日(金)14:00~17:00

都野展子(金沢大学理工研究域自然システム学類)
きのこはなぜ毒を作るのか?
Why mushroom produce poison?

きのこは多様な毒を作ります。きのこの毒成分についての生化学的研究も途上ですが、その生態学的な意義、つまりきのこは毒を何が目的で作るのか、毒によりきのこの適応度はどう変わるのか、と云う根本的な問に対する答えもまだありません。まずきのこは毒を積極的に作っているのでしょうか? テングタケ属2種のイボテン酸やαアマニチン濃度をキノコの成熟度と部位別に測定した調査では、幼菌とヒダ部分で最も高く、基部で合成した毒を、胞子生産を担うヒダ部分に輸送し濃縮すると考えられました。テングタケは未熟段階と有性生殖に重要なヒダ部分の毒濃度を高めていることから、捕食回避機能が支持されます。興味深いことに胞子が成熟した段階で全体の毒濃度は減少し、胞子は毒濃度は最も低いことも観察されています。この結果は胞子の被食散布の重要性を示唆するようでもあります。きのこ毒は捕食からの防衛だとすれば、ターゲットは誰か。きのこ毒が生物間相互作用にもたらす影響について紹介します。

前野ウルド浩太郎(京都大学白眉センター)
異性との出会い:バッタにおける雄の待ち伏せ行動
Male-male sexual competition in grasshoppers

多くの動物にとって異性との出会いは繁殖上重要なイベントの一つである。昆虫の雄はエサ場や産卵場所などで訪れる雌を待ち伏せし、出会っていることが知られている。待ち伏せ場所では、しばしば性比が極端に雄に偏り、雌を巡る雄間の競争が起こることがある。雄が雌をどのように待ち伏せしているのかを明らかにすることは配偶行動を理解する上で重要である。 フロリダの湿地帯には翅が退化して飛べないバッタが生息している。幼虫や若い成虫は水上の植物上で生活しているが、性成熟した雌成虫は産卵するために陸地(島)に戻ってこなければならない。そこでは雄が雌を待ち伏せすることが予測される。本セミナーでは、このバッタが示す雄の待ち伏せ行動について紹介したい。

スペシャル 2015年4月28日(火)13:00~

Isabel C Barrio (University of Iceland)
Caterpillars on the tundra: do invertebrate herbivores play a role in northern ecosystems?

Herbivory is a main biotic interaction of tundra ecosystems that can shape the structure and dynamics of tundra plant communities. Recent studies suggest that herbivory can modulate the responses of tundra plants to ongoing environmental changes, and grazing management has been suggested as a potential tool to buffer some of the adverse effects of warming on tundra rangelands. However, most evidence comes from large, vertebrate herbivores and the role of invertebrate herbivory in these systems has been often ignored. In turn, invertebrate herbivores are likely to respond more rapidly to warming because their life cycles and behaviour strongly depend on temperature. In this seminar I will present my research on the role of invertebrate herbivores in tundra ecosystems, looking at their interactions with other herbivores and how their impacts on plants may change under warming scenarios.

第265回 2015年4月17日(金)14:00~17:00

大橋春香((独)国立環境研究所)
統合的な野生動物管理にむけた社会科学と生態学の融合的アプローチ:イノシシ問題を事例に
An integrative approach of social science and ecology for wildlife management : the case study for Wild boar

近年、里地里山地域において野生動物による農林業被害が深刻な問題となっています。農林業被害は営農意欲の低下をもたらし、耕作放棄地の拡大につながっていると考えられます。さらに、耕作放棄地の拡大は、野生動物の生息に好適な環境を提供し、分布拡大を促進していると考えられます。このように、野生動物問題は、生態的要因と社会的要因が複雑に絡み合って起こっている問題であり、両者を統合したアプローチが必要とされています。また、野生動物管理には、国、都道府県、市町村、集落といった異なる空間スケールにまたがる行政・自治組織のほか、農林家、狩猟者、NGO、研究者といった様々な主体間の連携が不可欠であり、その体制をどのように構築するかが課題となっています。  講演では、イノシシによる農業被害問題を事例とした、統合的な野生動物管理に向けた社会科学と生態学の融合的アプローチによる研究事例を紹介します。

菊地直樹(総合地球環境学研究所)
コウノトリの野生復帰を軸にした包括的再生
Reintroduction of oriental white storks for comprehensive restoration

兵庫県但馬地方では、野生下で絶滅したコウノトリの野生復帰プロジェクトが進展している。コウノトリは水田など人の生活環境を生息域とするため、コウノトリの野生復帰は、自然再生と地域再生を一体的にすすめていく包括的な取り組みという特徴を有している。本報告では、当事者としてこのプロジェクトに関わってきた経験を踏まえ、コウノトリを地域での多元的な価値の創出に向けた選択肢としてとらえなおし、それを成り立たせるガバナンスの要件などについて、環境社会学の視点から考察したい。加えて、地域の課題解決に向けた再帰的な当事者性を有する研究方法としてのレジデント型研究についてもふれてみたい。

参加レポート

第264回 2015年2月20日(金)14:00~17:00

緒方博之(京都大学化学研究所)
海洋巨大ウイルスの進化と生態
Evolution and ecology of marine giant viruses An integrative approach of social science and ecology for wildlife management : the case study for Wild boar

生物は分類学的に細菌・古細菌・真核生物の3つのドメインからなる。だが、ここで何か欠けてないだろうか?「ウイルス」である。ウイルスは、生物と同様、核酸ゲノムをもち、遺伝子を発現し、複雑な増殖サイクルを繰り返し、自然界から強力な淘汰圧を受けて進化した寄生体である。細菌・古細菌・真核生物それぞれに特有のウイルスが知られており、そうしたウイルスに共通性があることから、ウイルスの出現はドメインの起源にさかのぼるとも考えられている。病原体としてのウイルスの研究は盛んだが、近年で、自然界では絶対多数を占める微生物に感染するウイルス(「環境ウイルス」)の研究が重要になってきている。要因はいくつかあるが、その一つが、アメーバに感染する「巨大ウイルス」と称されるミミウイルスの発見だ。ミミウイルスの粒子は直径700 nmで、1.2Mbpのゲノムには1000以上の遺伝子を保持し、ウイルスとしては破格のサイズである。その後の研究から巨大ウイルスの類縁が海洋環境に遍在することも明らかになってきた。講演では、巨大ウイルスの発見、それがもたらした「ウイルス概念」の変化、そして、海洋巨大ウイルスや他の環境ウイルスの生態学的研究の一端を紹介したい。

竹内祐子(京都大学大学院農学研究科)
なぜ線虫が巨木を枯らすのか─ マツ材線虫病のメカニズムにオミクスで迫る
How can the tiny nematode kill big tree - Three 'omics' approaches to the pathogenic mechanism of pine wilt disease

マツノザイセンチュウは、白砂青松を要する日本古来の景観を壊滅状態に追い込み、今なお拡大を続けるマツ材線虫病(通称マツ枯れ)の病原体です。2011年のドラフトゲノム公開からはや4年、本種の病原性をめぐる分子基盤の整備は着々と進みつつあります。本講演では、複数の生物種による複雑な相互関係によって成立する本病伝染環を概説するとともに、ゲノム情報を応用したオミクス研究例として、(1)古典遺伝学をベースとしたゲノミクス、(2)体表タンパク質と分泌タンパク質を標的としたプロテオミクス、(3)生育ステージごとの比較トランスクリプトミクスという3つのアプローチに基づくマツノザイセンチュウ病原性規定因子の探索プロセスを紹介します。

第263回 2015年1月16日(金)14:00~17:00

矢崎健一((独)森林総合研究所)
松枯れの進行に伴う木部内水分挙動と葉の生理特性
Water dynamics in xylem and physiological traits of needles during the progression of pine wilt disease

我が国の森林に深刻な被害をもたらしている松枯れ病は,感染するとマツ樹幹内の通水が一気に寸断され(エンボリズム(塞栓)),葉へ水を送ることが出来ずに枯死に至る。一般的に植物は、水供給が不足すると気孔閉鎖や落葉などで蒸散を抑制することで,樹体全体で水収支を調節する。なぜ松枯れ罹病木ではこのような調節が行えずに一気に枯死に至るのであろう。 また、マツノザイセンチュウの感染でなぜエンボリズムが起きるのか,植物生理・組織学的な方面からこれまでに多くの研究が行われてきているが,未だ不明な点が多く,罹病木を治癒することは困難である。 近年、樹木の木部内の水分状態を観察できる手法が発達したことで、松枯れ進行時の木部エンボリズム発生についての新たな知見が得られつつある。本発表では、松枯れ罹病木の病徴進展を,樹幹木部内のエンボリズムの推移および葉の生理特性変化と関連づけて解析した結果を報告する。

池田武文(京都府立大学大学院生命環境科学研究科)
京都府・天橋立におけるマツ枯れ対策とマツ林の保全
Control program of pine wilt disease and pine forest conservation in Amanohashidate, Kyoto, Japan

天橋立は延長3.2km、幅40~170mの砂州とその上に形成された松並木で形成されている。その景観は古く平安の時代より白砂青松の地として知られ、日本三景の一つに数えられている。天橋立には胸高直径10cm以上のマツが約5,000本生育しているが、マツ材線虫病による枯損被害が長年に渡り発生していた。特に平成13年には178本のマツ枯れが発生したため、平成14年当初より景観保全の観点からマツ枯れとマツ林の保全対策を実施している。その1:マツ材線虫病総合防除対策。予防措置してのマツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの駆除、感染源を断つための枯損マツの伐倒駆除。その2:周辺住民への啓発と天橋立公園内の植生、景観調査。ここでは、森林保護学と森林生態学の視点からの実践事例として、天橋立における松並木保全のための種々の取り組みを紹介する。