「CERの森を利用したミツバチ研究」




To Bee, or not to Bee.
That is the question.
I think it with dancing.
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(Movie of Waggle dance of Apis cerana japonica: Quick Time Player)





(1)「都市部におけるニホンミツバチの保全とCERの森での飼育」


 春先になると、ミツバチコロニーの古い女王はワーカーやオスの一部を引き連れて新たな巣を求めて分蜂する。巣口から雲霞のように飛び出した分蜂群は、いったん蜂球を作って付近の樹の枝などに集結する。ここで探索ハチがいろんな方向に飛び出して営巣場所を調査し、適当な場所を見つけるとダンスで位置を知らせ、衆議一致すれば一斉にそれに向かって飛び去る。この分蜂群が集団飛翔する時の羽音と情景がすさまじく、市街地でこれがおこると大抵の市民は驚いて、市役所や保健所になんとかしてくれと電話をかける。この連絡を受けてセンターのミツバチ研究グループは分蜂群の保護のために捕獲採集に出向くことにしている。ミツバチの捕獲作業は大抵、樹の枝にぶら下がった約20cm位の蜂球を、下に受けた段ボール箱などにバサッと落とし込むという単純な作業だが、それなりの熟練と緊張が必要である。女王がちゃんと箱に入っておれば、あふれて飛び回っていたハチも、最後はなんとか引き寄せられて箱に収まってくれる。順調に行けば作業は、約30分で終る。分蜂群は比較的おとなしいが、どこかでストレスを受けて逃亡してきたようなコロニーは結構、気が荒く、刺されないように、それなりの防御が必要である。収用したミツバチはセンターの実験森林区の一角(CERの森)に持ち帰り、巣箱に入れて、ここで行っている実験のために飼育と観察をつづける。下に示す写真のように研究に応じていろいろの飼育の仕方をしている。
 対象区域はセンターの近辺、大津市内と草津市内で、この2年間で16回の作業を行なった。おそらくこれに数倍する分蜂がこの地区であって、そのほとんどが駆除されてしまうと推定されるので、どこからこれだけの数の分蜂群がやってくるのか問題になる。一つは周りの森林区であろうが、毎年決まって分蜂がある地区には比較的大きな神社やお寺があるので、ここにある大木に営巣する伝統的なコロニーが分蜂群のソースになっているようだ。ミツバチの種類に関して言うと、1回(大津市南郷付近)のセイヨウミツバチを除いて、あとはすべてニホンミチバチであった。分蜂の場所は、樹木、民家の軒下、お茶室の待ち合い、換気扇、閉じた井戸のフタ、フェンスの支柱、公園の木製遊具、廃棄机の引き出しなど多様であるが、一番多かったのは樹木であった。
 捕獲現場では、ミツバチとだけでなく市民との間にも交流ができる。「刺されるのはいやだが殺すのもしのびない」というのが、一般的な市民の感情のようである。ミツバチの生活や行動を記した簡単なパンフレットを渡し、資源及び送粉昆虫としての保全の意義や捕獲したミツバチで研究している内容を説明すると、理解してもらい励ましをもらうことが多い。これを市民との連携活動というにはささやかなものであるが、それなりのセンターの地域貢献となっている。
 ミツバチの分蜂のように自然に起こることは、ほっておけば良いという考えもあるが、市街地の分蜂群は、有害昆虫として駆除されてしまう可能性が高い。また駆除をまぬがれて営巣した場合でも大抵、家屋の屋根裏や床下のような人工構造物に住み着いて、結局は始末されてしまうことになる。近所の知り合いの昆虫駆除業者は、屋外の分蜂群などに関しては、放置し逃がすように市民を説得しているが、屋内のものは依頼に応じて駆除しているようである。作業に薬剤を使用するのでコロニーは全滅してしまう。市街地での ニホンミツバチのコロニーの捕獲採集は、余計なお世話ではなく、これの保全に役立っているのである。また本来は分散的に存在するコロニーを一ケ所に集めて飼育するのは問題ではないかという意見もあるが、このような活動で集められるコロニーの数は年間10コロニー以下で、しかも半数近くは秋口にスズメバチのためか逃去してしまう。逃亡したコロニーのその後の行方や運命を推しはかるすべはないが、当センター付近は、森林や里山に囲まれているので、生き延びる可能性は格段に高いと思える。

清水 勇 (2006)「都市部におけるニホンミツバチの保全と地域連携」CER News,93, p26-27.
松浦 誠 (2005)「都市における社会性ハチ類の生態と防除」ミツバチ科学別冊資料 No.11

木箱巣

丸洞巣

観察巣

網室飼育

ビニールハウス飼育



追記-「京都の四条烏丸交差点におけるミツバチ信号機騒動」(2007年5月10日記)

 2007年5月2日午前8時30分ごろ、京都市四条烏丸交差点の信号にニホンミツバチの分蜂群が付いて、ちょっとした騒動を引き起こした(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070503mog00m 040016 000 c.html)。2000匹あまりのニホンミツバチの分蜂群が信号の青ランプの部分に群れて、交通を混乱させたというものである。これに関連して、テレビ局 (MBS)が、「CERの森」養蜂場のニホンミツバチの映像を採録してかえり、ミツバチ信号機の現場録画と一緒に、その日の夕方のニュースで放映した(http://www.mbs.jp/news/kansai_GE070502164400013245.shtml)。取材に来た記者の質問の大意は、「どうしてハチが赤や黄色ではなく青色の信号に群がったのか」というものであった。5月4日にも、やはり大阪市淀川区の繁華街の信号機の青ランプにミツバチの分蜂群がついて駆除されたと報道されている(http://www.asahi.com/national/update/0505/OSK200705040064.html)。 信号機へのミツバチ分蜂群の集合については、あまり記録はないが、はからずもミツバチの色覚 (color vision)に関する路上観察実験が、赤青黄の3色信号を用いてなされたということになる。
 ミツバチが、紫外部 (340 nm)、青(463 nm)、緑感受性(530 nm)の視物質オプシンをもとに、三原色性の色覚をもっていることはよく知られている。長波長の赤はほとんど感じない。そもそも長波長を感知する赤視物質が眼にないからである。だからミツバチは赤い色の花をめったに訪問しない。たまに例外があるが、その場合は人間には見えない紫外線をその花が反射していて、それにひかれてハチが来ると言われている。
 すでに1910-20年代にフォン・フリッシュやキューンの学習行動を利用したミツバチの色覚実験によって、彼らが紫外(300-400 nm)、青 (400-480 nm)、青緑 (480-500 nm)、黄緑(500-650 nm)の各波長領域を、それぞれ区別して識別できることが分かっている。良く引用され、しかもたびたび人によって間違って引用される、これらの古典的な研究は、ヘルベルセン (1975)がおこなった別の実験によっても確かめられた。彼は、ミツバチが隣同士の波長を識別できる度合いを調べ、400nm(バイオレット)付近と500nm付近(青緑)に、鋭利な識別能のピークが存在することを見いだした。またワーカーを引き寄せる誘引性では紫外領域 (340 nm付近)が最も大きく、青 (450 nm付近)と黄緑 (550 nm付近)にマイナーなピークがみられることが分かっている。
 このようにミツバチは、青緑領域がよく見えるということはよくわかっているが、分蜂群の青信号への集合性の行動的な背景はあるのであろうか。よく考えてみると、四条烏丸交差点の信号機は青→黄→赤→青→といった点滅を繰り返していて、青、黄と赤の同時的な選択実験にはなっていない。しかも黄色の点灯時間は短く、実質的には青と赤の交互選択実験となっている。ということは、上で述べたようにミツバチは赤が見えないから、もともと見える青信号しか選択の余地がないことになる。もし走光性(phototaxis)によって信号機の光に引き寄せられたとすると、分蜂群は女王を中心に集結する性質があるので、一部のワーカーと女王が青ランプにひかれてくっ付き、他のワーカーがそれにひかれて固まりを作ったというのが、もっともありそうな可能性である。
 四条烏丸の青信号は、青色発光ダイオード (LED)のようではなく、ランプと色ガラスの組み合わせでできているようだ。これの正確な光スペクトルはわからないが、青色発光ダイオードのように400 nm台に極大がある青色ではなく、見た目で500 nm付近に極大がある青緑色というべきものであろう。分蜂群は自然の野外では、樹木の枝にぶら下がって蜂球を形成する (写真)。ビル街では道路上に突き出した信号機が、ハチにとって樹の枝にかわる格好の集合場所として選ばれたのだろう。そうすると、信号の青緑色も樹のシグナルとして分蜂群を誘引したという可能性がある。青信号は、樹木の少ない砂漠のような都市部でハチが見つけた唯一の救いの灯だったのかも知れない(I.S)。



 

(2)「CERの森のミツバチとスズメバチの観察」


 「CERの森」の南端にセンターでのミツバチ研究を維持するため養蜂場が設置されていて、ニホンミツバチセイヨウミツバチが飼育されている。ここではミツバチとそれを取り巻く生き物との間でおこる様々な現象が観察されている。
 この付近にはキイロスズメバチコガタスズメバチオオスズメバチなどが生息していて、毎年9月のはじめ頃、野外で昆虫などの餌が少なくなると、ミツバチの巣箱を狙いはじめる。これらスズメバチのなかでも最も甚大な被害を及ぼすのは、オオスズメバチである。多くは森の奥にある巣から飛び出してきて、巣箱を襲い、油断していると2−3日のうちに数箱が全滅するなどの被害が生ずる。オオスズメバチはスズメバチ科の最大種で.日本全土に広く分布しており、その攻撃は集団的で、最初は1匹が飛来し、しばらくすると数匹となり,ついには10〜20匹が巣箱に群がる。加害の特徴としては,口器の大きな歯大顎で相手を次々とかみ殺し,コロニーの抵抗が弱まると、最終的には巣の中へ侵入して、幼虫,蛹を補食して自分の巣に運ぶ。占拠した巣箱には1−2匹の見張りを残していることが多い。
 「CERの森」の養蜂場でスズメバチに対するニホンミツバチとセイヨウミツバチの誘因性を調べるために、巣を複数交互にならべ、それぞれ巣箱の入り口にスズメバチのトラップを付けておいた(写真1)。トラップは熊谷養蜂株式会社(埼玉)の販売する「胡蜂捕獲器」で、これはスズメバチがミツバチを捕まえると、直ちに上方向に飛翔する性質があることを利用したものである。2005年の9月中に約30日間設置し、それぞれのトラップの蜂の数をカウントした(写真1のグラフ)。結果は明瞭で、セイヨウミツバチ巣の59頭(オオスズメバチ58頭、キイロスズメバチ1頭)に対して、ニホンミツバチ巣ではわずかに2頭(オオスズメバチ1頭、キイロスズメバチ1頭)であった。スズメバチが来ると、巣口を固めたニホンミツバチの集団は身体を一斉に振動させ、「シャー」という威嚇音を発する。これが結果としてニホンミツバチへの攻撃を少なくしているのかもしれない。この外にも、どのような要因が関係するか検討している。
 ニホンミツバチがオオスズメバチの攻撃を防衛する方法の一つとして蜂球による熱殺戦法が知られている。飛翔筋の発熱により内部温度は47°C以上になると言われている。ニホンミツバチのこの特異な行動は玉川大学の小野さんら(Ono et al., 1987, 1995)によって、はじめて報告されたものである。「CERの森」の養蜂場でも、ニホンミツバチによるスズメバチの蜂球による熱殺が観察された(写真2はキイロスズメバチに集団で飛び掛かった瞬間)。セイヨウミツバチも、蜂球の形はニホンミツバチのそれに比べると不定形であったが、やはり集団でキイロスズメバチを包み込む行動が観られた(写真3)。スズメバチは本来、養蜂家が嫌う生き物であるが、ここでは多様なスズメバチの集団による、ミツバチへのアタックとそれに対する防御を観察・研究するのに好適なフィールドになっている(I.S)。

(追記)
 この話題に関連して面白い報告が最近いくつか出されているので紹介しておく。雲南大学のTan Kenら (2005) はツマアカスズメバチ (Vespa velutina) に対するトウヨウミツバチ (Apis cerana cerana, A.cerana indica) とセイヨウミツバチ (A. mellifera) の蜂球形成行動を比較、検討している。ツマアカスズメバチは、2004年に中国産の盆栽に紛れ込んで南ヨーロッパに侵入したトウヨウスズメバチ (Asian hornet)である。これのミツバチ巣へのアタックが激しいほど、ミツバチの採餌行動の回復が長引くと報告している。さらにTan ら(2007)はV. velutinaの巣へのアタック行動を観察し、彼等はトウヨウミツバチよりもセイヨウミツバチをより好んで襲い、しかもより効率的に捕獲することを報告している。これはスズメバチの待ち構える巣口で、前者が飛翔行動を巧みに変化させるのに対し、後者は、そのような融通性が無い事によるものとしている。またギリシャのThessalon大学のPapachistoforouら (2007)は、オリエントスズメバチ(V. orientalis)に対するキプロスミツバチ (A. mellifera cypria)の蜂球形成を仔細に観察し、これによりスズメバチが死ぬのは、熱殺によるよりもむしろ窒息によるものと結論を下した。ミツバチはスズメバチの腹部にアタックすることにより気門を通じた正常な呼吸運動を阻害するらしい。(2007/12/20)

Ono, M., et al.(1995) Unusual thermal defence by a honeybee against mass attack by hornets. Nature 377:334-336.
Tan k., et al.(2005) Heat-balling wasps by honeybees. Naturwissenscaften 92:492-495.
Tan K., et al.(2007) Bee-hawking by the wasp, Vespa velutina, on the honeybees Apis cerana and A. mellifera. Naturwissenscaften 94:469-472.
Papachristoforou A., et al. (2007) Smothered to death:Hornets asphyxiated by honeybees. Current Biology 17:795-796.



(写真1)



(写真2)



(写真3)





(3)「ニホンミツバチとキンリョウヘンの不思議な共生関係」


 キンリョウヘン(金稜辺)は、中国雲南省付近を原産とするシンビジュウムの一種であるとされている。これは明治の初めに日本に移入されたものという。比較的、寒さに強い性質を持ち、日本では交雑用の園芸品種が多数育成されている。花期は毎年5月ごろで、ちょうどミツバチの分蜂がおこる時期と一致している。花色は地味で、ニオイはかすかに鉄サビのような乾いた匂いがする(写真1)。
 このキンリョウヘン(Cymbidium floribundam)が、ニホンミツバチ (Apis cerana japonica)を特異的に誘引する不思議な性質をもっていることが分かっている。もともとカンラン、エビネ、シランなどは、ミツバチを含むハナバチを誘引するが、蘭の多くは花蜜を出さないので、芳香でもって送粉者をおびき寄せている。ミツバチの場合、これらの蘭におびきよせられるのは、いうまでもなくワーカーの採餌蜂 (forager)だけである。ところがニホンミツバチの場合、キンリョウヘンには採餌蜂(写真1)だけでなく、雄バチ(写真2)、処女王、分蜂群(写真3)さらには逃亡群までが、その花に誘引されることが知られている。
 分蜂群は花房に集合して蜂球を作り、長い場合は2−3日そこですごして新居に移動する。その間に受粉をすませた花はすっかりしおれてしまう。一方、セイヨウミツバチの巣箱のそばに、キンリョウヘンを置いても見向きもしない。ニホンミツバチ以外に、この植物を訪れた昆虫は、「CERの森」で観察するかぎり、アリとヒラタアブだけであった。アリは花外蜜腺を利用している。ヒラタアブは訪花しているよう見えたが、一例観察なので、たまたま偶然だった可能性もある。
 キンリョウヘンがニホンミツバチをおびきよせることを、蘭の育種家や愛好家は古くから知っていたようである。ちなみに中国ではこの蘭に「蜜蜂蘭」という名が付けられている。このような民間伝承のような情報をもとに、1990年代になって研究者がこの現象を詳しくしらべ、興味ある事実がわかってきた。関西ミツバチ研究会の菅原道夫さんの観察では、キンリョウヘンの交雑種やデボニアヌム、スアヴィシムムのような蘭もこのミツバチを誘引するということである。
 キンリョウヘンがニホンミツバチのワーカーを誘引することは、送粉者として利用しているということで、意味づけできるが、これが雄や分蜂群を呼ぶことの生態的な意味はなんであろうか? ミツバチは集合フェロモンを出すので、進化の過程でワーカーの誘引に、たまたまそのような物質を、この蘭が開発したためと考えられる。もっとも、それを支持するデーターはいまのところ得られていない。ニオイ成分の化学的実体については、複数のグループで研究が進んでいるので、今後の解明が期待できる。単一の成分が誘引に有効なのか、複数の成分がワーカーや雄あるいは集団の誘引に、それぞれ有効なのかは、興味ある課題である。
 分蜂群がキンリョウヘンに飛来する前に探索蜂がやってくる。探索蜂は分蜂群の新たな巣をさがすワーカーである。採餌蜂との区別は明確でない場合もあるが、花に誘引されて来た彼らは、必ずキンリョウヘンのまわりの探索を入念に行って帰る。近くの石垣(W)に埋め込まれたパイプ口(HC)、植木鉢の底 の通気穴 (HA)、巣箱(HB)などを見つけると、そこに入り込み何回も点検する。例えば、ある一匹は10分位の間に、花(F)→HB→W→F→W→HC→HA→W→HB→帰還などといった行動をみせる。そして好適な場所を見つけると、花に分蜂群が集合した後、そこに一斉に移動して営巣することが多い。送粉者がニホンミツバチに特化しているので、キンリョウヘンにとっては、彼らが近傍に巣を作ってくれることは、たいへん好ましいことである。キンリョウヘンのコロニー誘引性は、送粉者の近傍営巣という戦略に重要な機能を果たしていると思える。このような仮説をもって、現在「CERの森」では、何カ所かにキンリョウヘンの株を植え、周りに営巣しやすい空間を配して、自然条件でニホンミツバチが、この特異な蘭にどのように接近・集合し、さらにその後どのように営巣行動をとるのかを、容易に観察できるようにしてある(写真4)。

Sasaki, M., M.Ono, S.Asada, and T.Yoshida (1991) Oriental orchid (Cymbidium pumilum) attracts drones of the Japanese honeybee (Apis cerana japonica) as pollinators. Experientia 47:1229-1231.
菅原道夫、源利文、清水勇、東克 (2003) 「キンリョウヘン Cymbidium floribundum 唇弁の着色がニホンミツバチApis cerana japonica の訪花行動にあたえる影響 」ミツバチ科学 24, 115-118.


(写真1)



(写真2)



(写真3)



(写真4)





(4)「CERの森でのミツバチの野外活動リズムの計測」


 ミツバチも他の動物と同様に体内時計を備えています。それは時間記憶や太陽コンパス、あるいは餌のありかを仲間に知らせる8の字ダンス (waggle dance)などの行動で利用されています。
 ミツバチの体内時計は概日リズムとして表現されますが、その基本的な性質を明らかにするために、集団から離した一匹の個体の活動リズムを調べる方法がとられます。ミツバチのワーカーは羽化して、しばらくは内勤につき幼虫の世話や掃除、餌の運搬などを巣内でおこないます。このあと門番などの役割を経験した後、老熟した成虫は採餌バチとなって、昼間は巣口から盛んに飛び出していきます。個体レベルで活動の概日リズムが、はっきり出るのはこの時期ですので、採餌バチを巣口で捕らえて一匹ずつ、アクトグラム (actogram)という特殊な装置で活動量を計測しました。その結果、全暗あるいは全明では自由継続リズムが見られました(図1)。自由継続しているときの周期をτ(タウ)と表記しますが、全暗条件ではτは 22.5時間、全明では24.5時間で、さらに光強度に依存してτが変化することが分かりました。
 概日リズムを示す体内時計を環境に同期させる因子として、光や温度のような振幅を持ったサイクルが必要です。しかしセイヨウミツバチやニホンミツバチのように樹洞の閉鎖空間に営巣するタイプの場合は、巣の中心部はあまり光もささず、温度も一定で比較的安定しています。巣盤の中心部で働く、羽化して間もない若い働き蜂がリズム性を示さないのは、そのような環境の特性が一つの原因だと思われます。一方、外勤の採餌バチは活動リズムを示すようになりますが、彼等はその前に門番バチになって、巣の周辺部で活動し、洞穴動物がするように、朝夕に巣口で光サンプリングを行うことにより、次第に体内時計を環境に合わせて、動かしはじめるものと考えられています。
 このように個体での活動リズムはよく研究されていますが、これと集団でミツバチが野外で示す活動との関係はよく分かっていません。そこで「CERの森」の養蜂場で飼育しているニホンミツバチの巣に、カウンターを仕掛けて巣口でのワーカーの出入りを調べました。カウンターはロガー(KADEC-UP:コーナシステム株式会社)と自作したインターフェースおよび赤外線センサーから構成されています (写真)。ロガーに蓄積したデーターはkadec-U seriesソフトで解析しました。この機器で計測したハチの出入りの数と目測した数は、ほぼ一致することが確認されました。ただしこの計測器では出と入りを区別できないので、今後は巣口の構造を変え、出入り口を別々にするなどの工夫が必要です。
 ともかくこの装置を使って、11月中旬(快晴)に計測した結果を図2に示します。この時期には、オスバチはまったく出ていないので、縦軸の10分あたりの計測数は、すべて採餌バチの出入りをみたものになります。また、センター付近ではこの時期の花資源は、ほとんどセイタカアワダチソウに限定されていました。図の結果は正午前の午前中に大きな活動ピークが、さらに午後3時すぎにマイナーなピークが存在することを示しています。下図はその日の天候データー(CER気象観測装置で測定)を示したものです。この日、気温が一番高いのは、正午をすぎの午後1-2時で、飛翔のピークとはずれていることが分かります。採餌バチの単独個体の明暗サイクル下での活動パターンは一般に、午前中にマイナーピーク、午後に大きいピークを示します。ピークの双峰性と活動量の大小そして概日性時計との関係についての研究を進めています (A.H)。

Fuchikawa T. and Shimizu I. (2007) Circadian rhythm of locomotor activity in the Japanese honeybee, Apis cerana japonica. Physiol. Entomology 32, 73-80.
Shimizu I., Kawai Y., Taniguchi M., Aoki S. (2001) Circadian rhythm and cDNA cloning of the clock gene period in the honeybee Apis cerana japonica. Zool Science 18, 779-789.


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