Futami Bay    

世界自然遺産、小笠原での研究概要

  

                                                             
                                                                                                                                        

東洋のガラパ ゴス小笠原 (Bonin Islands)

  小笠原諸島は、東京から南約1,000kmの太平洋上に位置する、亜熱帯の島々です。年平均気温が27℃で、冬でも雪が降ったり、霜や氷結もありません。 小笠原は、第三紀に海底火山が隆起してできた島で、今まで一度も大陸とつながったことの ない、海洋島です。海流や鳥、風などによって運ばれた種子が、島内で独自の進化をとげてきています。小笠原の樹木の約70〜75%が島の固有 種であり、非常に固有種率が高いのが特徴です。このことから「東洋のガラパゴス」ともよばれています。また年間降水量は約1,250mmと、ほぼ同じ 緯度に位置する沖縄の半分ほどしかありません。
 
  この少ない降水量と、火山性の島であることから土壌の発達が悪いことから、背丈の低い林が広がっています。特に尾根部では土壌が薄く、樹木の背丈が1m以 下しかなれません。一方、谷部では土壌が発達しているため、樹木の背丈は20mにも達します。この小笠原の森林は特に「乾性低木林」とよばれ、日本では他に例が少なく、ヨーロッパの地中海性気候に見られる硬葉樹の森林の姿に似ていると言われます。この貴重な生態系を 守り、後世に引き継いでいくため、2011年6月にユネスコの世界自然遺産に登録されました。小笠原諸島は、屋久島、知床、白神山地に続く、日本で4つ目 の世界自然遺産登録 サイトになります。


Vegetation

乾性低木林 (右写真は父島): 


  常緑性の多くの植物種が共存し、その多くは小笠原にしか見られない固有種から成りなっています。特に尾根部に生育する植物は、強い光や乾燥、低栄養塩に耐 えるための、さまざまな生理や形態特性を持っています。

  乾燥した尾根部のみに生育する植物や、湿った谷部のみに生育する植物も見られます。また一方、尾根部でも谷部でも生育する樹種も見られます。彼らは同じ樹 種でも、乾燥尾根部では背丈が低く、湿った尾根部では背丈が高くなります。背丈とともに、他のどんな形質が尾根部と谷部で変わっているのか、現在調査中で す。

 またこういった乾性低木林で、厳しい環境に対する植物の適応の仕方の違いや、なぜ多くの植物が共存でき、生物の多様性が維持されているかを明らかにする 研究をおこなっています。





Bichofia javanica

外来樹種 (右写真はアカギ): 


  小笠原へは、明治時代になって本格的に入植が始まりました。その後人々によってさまざまな樹木が島に持ち込まれてきました。その目的は、食料や薪炭として 利用するためです。そのうち現在、アカギ、ギンネム、モクマオウ、ガジュマル、キバンジロウ、リュウキュウマツといったさまざまな樹木が、どんどんと天然 林 に侵入し、在来性の樹木の分布をせばめていっています。

 こういった外来性の樹木が、なぜ在来性の樹木よりも多くの子孫を残し、かれらを排除していけるのかを明らかにする研究を行っています。特に外来樹木は、台風の後、樹木が倒されたりといったかく乱を契機に、天然林へと侵入をしていく種が多いです。 そこで「外来樹木の稚樹は、かく乱によって環境が大きく変動した時に、資源を多く獲得し、大きな成長を達成できることが、彼らの侵入を助ける重要な一要因になっている」と仮説づけ、研究をおこなっています。



乾性低木林に生育する植物種の生理生態的特性のデータベースの公開 (Excel file)

 父島の乾性低木林 に生育する植物種の生理生態学的な形質のデータべースをExcel fileで公開しています。この中で、アカギのみは湿性高木林樹種です。これらのデータの1部を使っ て、下記の論文が刊行されています。データはこれらの論文の著者らによって採取されたものです。

1) Ishida A., Nakano T., Yazaki K., Matsuki S., Koike N., Lauenstein D.L., Shimizu M. and Yamashita N. (2008) Coordination between leaf and stem traits related to leaf carbon gain and hydraulics across 32 drought-tolerant angiosperms. Oecologia 156: 193-202.
2) 石田厚、中野隆志、矢崎健一、松木佐和子、山路恵子、清水満美留、山下直子 (2009) 小笠原乾燥尾根部に生育する植物の葉と茎の生理生態学的特性 (Ecophysiological traits in leaves and stems of plants growing dry-ridge sites on the Bonin islands.) 小笠原研究 (Ogasawara Research) 34: 9-31.

より詳しい情報が必要な方は、このホームページ製作者の石田厚までお問い合わせください。

 



現行の研究費:

科学研究費補助・助成金 (基盤研究B) 「世界自然遺産の小笠原樹木の乾燥適応と種多様性維持機構の解明」 課題番号:60343787  課題代表者:石田厚  平成24〜28年度


社会貢献sunset

 ここでは小笠原の在来種や外来樹種に関わる適応・分布・森林の更新・共存・多様性の維持といった生態現象を、生理機能から明らかにする研究をおこなって います。

 これらの研究は、1)小笠原の貴重な森林を保全管理する技術の向上や、2)小笠原をモデルサイトにすることによって、将来の地球環境変化によって生じ るであろう、植生の変化や新規樹種の移入に対する保全技術の向上に、結びついていきます。









Sunset

主な共同研究者(外部機関):

可知直樹 教授  (首都大学東京)

山路恵子 准教授  (筑波大学)

中野隆志 ・ 安田泰輔   (山梨県環境研究所)

矢崎健一 ・ 山下直子 ・ 大曽根陽子 ・ 吉村謙一 (森林総合研究所)








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