研究紹介

近年、急速に進行する地球温暖化の影響により、環境破壊や農作物での病害虫多発などの問題が地球規模で生じています。こうした問題は温暖化の進行に伴いますます深刻化すると予想され、将来の地球規模での環境保全・食料確保のための早急かつ適切な対応が求められています。私たちの研究を通して、植物の害虫に対する防衛戦略の分子メカニズム(シグナル伝達系、遺伝子転写制御、防御遺伝子・化合物)に着目し、生物間のネットワークのメカニズム解明を目指しています。



香りが仲介する生物間相互作用
「生態系における生物の相互作用」メカニズムの解明を目指し、我々が安心できる食料の供給や環境に配慮した持続的農業の開発、生態系・生物多様性保全を実現するための基盤研究を実施しています。特に、害虫に加害された植物から放出される香り成分が害虫を攻撃する天敵生物(捕食、寄生者)を呼び寄せる間接防衛という現象に注目し、遺伝子組換え技術を介した栽培植物・天敵生物の活性化と、それらを活用した次世代型の害虫管理技術の開発基盤を築くことを目標にしています。植物の主要な香り成分であるテルペンの生合成遺伝子を発現させた組換え植物(シロイヌナズナ、タバコ、トレニア)を作成し、作成された植物を天敵誘引源として農地に農作物と栽培することにより、農薬に頼らずに農作物を害虫から守ることが期待できます。


共同研究:
京都大学生態学研究センター・高林純示 教授、小澤理香 博士
(財)岩手生物工学研究センター主席研究員・西原昌宏 博士
農業環境技術研究所・釘宮 聡一 博士
中央農業総合研究センター・下田武志 博士
理化学研究所・笠原博幸 博士、山口信次郎 博士



生物間の相互作用に必要な細胞内シグナル伝達系
最近の研究より、動物−植物間の相互作用においては植物細胞内のカルシウムのダイナミックスが重要な役割を担うことがわかってきました。そこで本研究では特に、カルシウムにより活性化されるリン酸化酵素(Calcium-Dependent Protein Kinase: CDPK)とCDPKと相互作用する転写制御因子とタンパク質ユビキチン化制御系に着目し、それらのシグナル伝達系を介した遺伝子転写制御機構の解明を行っています。CDPKと相互作用する転写因子の同定は、愛媛大学・無細胞生命科学工学研究センターのグループによってコムギ無細胞タンパク質合成系によって作成されたタンパク質を用いて行っています。CDPKと転写因子を過剰発現させたシロイヌナズナ組換え植物を作出し、様々なストレス環境におけるCDPK-転写因子制御システムのメカニズム解明とそれらの基礎知見からの応用的展開を目指しています。


共同研究:
愛媛大学・無細胞生命科学工学研究センター・澤崎達也 准教授、高橋宏隆 博士
イタリア、トリノ大学・Massimo Maffei 教授