琵琶湖沿岸一斉調査2005‐2006
調査の目的
琵琶湖は世界で3番目に古い古代湖であり、世界屈指の多様性の高さを誇る湖です。構造湖である琵琶湖は単にその面積が大きいというだけでなく、沿岸帯と沖帯という異なる構造をもった生態系から成り立っているのが特徴です。また、南北に細長い地形のため、南部には温帯性の生物相が、北部には冷温帯性の生物相が形成されます。その集水域に目を向けると、北西部は人口密度の低い急峻な山岳地帯、東部は水田地帯、南部は住宅街と異なる土地利用のパターンが見られます。その集水域から琵琶湖に流入する河川は500本以上にのぼります。それぞれの河川から琵琶湖に運ばれる物質の種類と量は、人間の土地利用様式の違いを反映して、大きく異なります。これら気候・地質・水質などの環境が様々な時空間スケールで変化することによって、潜在的には同一の生物群集プールを共有する琵琶湖の沿岸には場所ごとに異なる局所群集が形成されます。このメタ群集構造の時空間動態を制御する要因と仕組みを理解するのが本調査の目的です。また、メタ群集解析を通じて、生物多様性を減少させる駆動因を抽出し、優先的に保全すべきエリアを選定するための判断材料を提供します。
調査従事者
奥田昇・刈部甚一・酒井陽一郎・武山智博・陀安一郎
調査協力者
大渕希郷・柿岡諒・神崎潔・後藤元保・小宮竹史・柴田淳也・鈴木規慈・菱田達也・福島正晃・藤森憲臣 (アイウエオ順)
調査地点
人口規模、土地利用様式、湖岸形態の異なる集水域流入河川河口域周辺、ならびに、流入河川の影響の少ない岩礁・抽水植物湖岸に計33調査定点を設定。また、陸域からの影響のほとんどないコントロールサイトとして、沖合の岩礁島(沖の白石)および当センターが運営する長期観測定点(IE)でも調査を実施。
調査地点リストと位置(powered
by Google Map)
調査期間
2005年11月−2006年7月に年4回(11月、2月、5月、7月)実施。
調査項目
各調査定点において、物理・化学環境観測および生息地評価を行い、魚類・ベントスおよびサイズ別プランクトンの定量・定性採集調査を実施。さらに、各種生物試料は炭素・窒素安定同位体分析に供試。
湖岸調査:流入河川河口部から200m以内(4地点は近隣に流入河川をもたない地点)で魚類・ベントスの定量採集および環境計測・生息地評価を実施。
1)
物理・化学環境計測
携帯型多項目水質測定器(U-20、HORIBA、Kyoto)を用いて、沿岸水の水温(Water temperature)(˚C)、pH、電気伝導動(Electric
conductivity)(mS/m)、溶存酸素濃度(Dissolved oxygen)(O2mg/L)を計測。携帯型酸化還元電位測定器(RM-20P, DKK・TOA CORP.、Tokyo)を用いて、湖底泥表層内(in the bottom surface)および湖底直上水(near the
bottom)の酸化還元電位(ORP: Oxidation-reduction potential)(mV)を計測。
2)生息地評価
底質評価:岩礁=1、礫=2、砂=3、泥=4のスコアをつけ(複数選択可能)、その相対被度から湖岸底質を評価。
護岸評価:天然湖岸=1、人工親水護岸・人工砂浜=2、コンクリート護岸=3のスコアをつけ、湖岸の人為改変度を評価。
植生評価:沈水植物と抽水植物それぞれについて、なし=0、被度25%以下=1、25−50%=2、50−75%=3、75%以上=4のスコアをつけ、水生植物被度を評価。
その他:琵琶湖河川事務所により作成された琵琶湖環境情報図に基づき、当該地点の湖岸勾配(移動限界水深B.S.L.-2.0mまでの勾配)(1/d)、波高(m)、 ネットの漂砂エネルギ-(kg*m/day)、 漂砂エネルギ-レベル、砂浜幅(m)、
砂浜幅(S36)(m)、
ヨシ帯の分布(m)、
ヨシ帯の分布(S36)(m)のデータを取得。
3)礫付着藻類
糸状藻類および粒状藻類の付着した礫をそれぞれ5つ選び、コドラート(6cm×6cm)刈取り法で剥離(礫のない地点では省略)。それぞれのサブサンプルを混合し、1サンプルとする。懸濁水をガラス繊維濾紙(GF/F、Whattman、UK)で濾過し、Chla濃度と炭素・窒素安定同位体比分析試料を作成。安定同位体分析試料は1N塩酸処理し、蒸留水で洗浄後、60℃で一昼夜乾燥。試料の一部は検鏡用にルゴール氏液で固定して保存。
4)魚類
1m以浅の沿岸水域を建網で包囲し、網内の魚類を全て捕獲(建網包囲面積を記録して個体密度に換算)。沿岸の普通種(トウヨシノボリ、ヌマチチブ、ブルーギル、オオクチバス)は、適宜、タモ網・投網(投網回数を記録)を用いて定性採集。
5)ベントス
サーバネット(口径30cm×30cm、目合0.475mm)を用いて、各地点3回ずつ定量採集。沿岸の普通種(カワニナ類、タニシ類、イシガイ類、シジミ類、テナガエビ類)は、適宜、タモ網や鋤簾を用いて定性採集。
船上調査:沖合調査定点IEおよび沿岸33調査定点の沖側水深5m地点、あるいは、浅い場合は半径100m以内の地点でプランクトン(POM)をサイズ別採集
1)
物理・化学環境計測
携帯型濁度計(TN-100、Oakton
Instruments、IL、USA)を用いて濁度(Turbidity)(NTU)を計測。その他の項目は湖岸調査の計測値を使用。
2)プランクトン
水深2-3mにてバンドン採水器を用いて定量採水し、20−70μm、70−150μm、300μm以上の懸濁態有機物(POM)を採集。懸濁水をガラス繊維濾紙(GF/F、Whattman、UK)で濾過し、Chla濃度を分析。また、ポンプ採水により、同サイズの懸濁態有機物(POM)を採集し、炭素・窒素安定同位体比分析試料を作成。安定同位体分析試料は1N塩酸処理し、蒸留水で洗浄後、60℃で一昼夜乾燥。試料の一部は検鏡用にルゴール氏液で固定して保存。
物理・化学環境観測データ
生息地データ
(公開準備中)
集水域土地利用データ
(公開中)
群集組成データ
出現魚類リスト(群集組成データは公開準備中)
ベントス(公開準備中)
動物プランクトン(公開準備中)
炭素・窒素安定同位体比データ
食物網基盤餌源(公開準備中)
魚類(公開準備中)
ベントス(公開準備中)
動物プランクトン(公開準備中)
公表論文
Karube, Z.,
Y. Sakai, T. Takeyama, N. Okuda, A. Kohzu, C. Yoshimizu, T. Nagata & I.
Tayasu, (2010) Carbon and nitrogen stable isotope ratios of macroinvertebrates
in the littoral zone of Lake Biwa as indicators of anthropogenic activities in
the watershed. Ecological Research 25:847-855 PDF for educational use
Okuda, N., T. Takeyama, T. Komiya, Y. Kato, Y.
Okuzaki, J. Karube, Y. Sakai, M. Hori, I. Tayasu & T. Nagata (2011) A food web and its long-term dynamics in
Lake Biwa: a stable isotope approach. In: Lake Biwa: Relationship between Human
and Nature. (Eds. Nakamura M. et al.) Springer Academic, Amsterdam, in press
謝辞
本調査は、日本学術振興会科学研究費補助金(若手B)「琵琶湖をモデルシステムとした沿岸食物網の時空間構造解析」(代表:奥田昇、No. 18770014)、21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」中央経費「古代湖の生物多様性と生態系機能に与える人為影響の定量的評価」(代表:奥田昇)、独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性/持続可能性指標の構築」(代表:永田俊)により支援された。
お問合せ先
京都大学生態学研究センター琵琶湖定期観測委員会
〒520-2113 滋賀県大津市平野2丁目509−3
担当: 奥田 昇(nokudaecology.kyoto-u.ac.jp)