東京

 東京と言えば、「東京ラーメン」。京都にも「東京ラーメン」という名前の店があるが、私に言わせれば、あれは東京ラーメンではない。私流に定義すれな、東京ラーメンとは、鶏と魚介の合わせダシで丼の底が見えるくらい澄んだ醤油スープ、表面にはうっすらと油が張ったあっさり味。麺は細ちぢれ。具は、刻んだ東京ネギ、シナチク、ナルト、海苔、半切りゆで卵、そして、豚肩肉の固めチャーシュー。これこそ、正統派の東京ラーメンだ!

 昨今のラーメン・ブーム以降、トンコツ系やニューウェーブ系が主流となり、正統派の東京ラーメンの店は少なくなってきた。ラーメン・ゲリラの原点である「究極の東京ラーメン」は、いずこにあるのだろう、、、。

 

説明: syouyu_ra-men 「本枯れ中華そば 魚雷」

 

長野の名店「信濃神麺 列士洵名」を全国区に押し上げたカリスマ店主が手掛ける、和と洋のテイストを融合した創作ラーメンが楽しめるお店。店名が示す通り、魚介出汁は、本枯れ本節二年物・枯れ本節・鹿児島産鰹節、鹿児島産・静岡産鯖節、香川産片口煮干、鳥取産アジ煮干と徹底的に産地と素材に拘っている。驚きなのが出汁の取り方。なんと、コーヒーのサイフォンで出汁をとっている!「単なるパフォーマンス?」と半信半疑であったが、スープを一口啜って納得、「こんなに上品なスープになるのかぁ!!」。巷では、濃厚な魚介出汁を取ったり、魚粉を使ったスープを売りにしたりする店はよくあるが、このようなスープは時間が経つと酸味やえぐみが強くなるという点でもろ刃の剣である。挽き立てのコーヒーを入れるが如く、サイフォンで出汁を取ることによって鼻腔を突き抜ける出汁の香りを楽しむことができるというわけだ。さらに驚きなのは、ムース状にした出汁をスープに添える(エスプーマと言うらしい)技法を駆使していることと、トッピングの具材が白い洋食器に別皿で盛り付けられていることである。一瞬、「素ラーメン?」と我が目を疑ったが、これも具材を乗せる前に素の状態で一啜りして再び納得。様々な具材から染み出る味が混ざり合うことによって出汁本来の旨味が半減してしまうので、まずは出汁と麺そのものを味わって欲しいとのこと。蕎麦を楽しむのに、まずは何も付けずに麺を啜るのと相通ずるコンセプトであり、これぞ和洋折衷の真髄と言えよう。

 

説明: syouyu_ra-men 「麺者 服部」

 「粋も甘いも、知り尽くすには、10年早い、お家に帰って泣いてろ♪」って、それはユニコーンの「服部」。こちらは、オーナーの服部恒夫氏と「忍者ハットリくん」を文字った屋号だそうな。スープは動物系に魚粉を合わせたインパクト系、まあ最近の流行でありがちな味。ここの秀逸は麺の滑らかさ、麺がスルスルと口の中に滑り込んでくるような絶妙な喉越し。麺のコシや噛み応えで単純に表現できない異次元の食感。これにアクセントをつけるのがベルガモットで味付けされた香玉。たいてい私は味玉をスープのお供にすることが多いが、この香玉は麺のお供に最適。

 

説明: siora-men 「多賀野」

 

行列必死の人気店で「粟国の塩そば」を食す。国産素材にこだわったダシは沖縄粟国島産の天日塩に包まれてマイルドでありながら、唐辛子によって引き締められたシャープな切れ味も併せ持つ。硬めに茹で上げられたストレート麺が喉越しの爽快感をさらに際立たせる。厚めに切られたバラとモモの2種類のチャーシューは味と食感のバリエーションが楽しめ、私の理想系に近い(個人的に◎)。

 

説明: kake 「六厘舎」

 

極太麺と濃厚魚介つけ汁が個性的なつけ麺の「超」有名店。開店30分前にも関わらず既に5060人の行列が、、、。何と言っても圧巻は、その行列の裁き方。カウンターの全員が食べ終わるまで次の客を入れずに一斉に総入れ替えを行うその兵法は、まさに我が甲斐の武田騎馬隊を翻弄した仇敵・織田鉄砲隊の「三段撃ち」。おそらく、麺茹でや配膳を考えると最も効率良いのだろうが、2時間の待ち時間に対して食事時間はわずか10分。動かざること山の如し、疾(と)きこと風の如し。

 

説明: siora-men ラーメン天神下 大喜」

 

学問の神様・菅原道真を祀る湯島天神の坂下に位置することから「ラーメン天神下」の名を冠した暖簾がはためく行列必死の名店。比内地鶏と魚介の合わせ出汁に赤穂の天塩を使った名物「とりそば」のスープは限りなくアッサリしているが、表面に浮かぶ鶏油によってまろやかさと旨みが存分に引き出されている。ストレート細麺に添えられた具材は、その名の如く、鶏チャーシューと鶏そぼろをメインとし、脇を固める味付けメンマの小気味よい歯ごたえが絶妙なアクセントとなっている。味玉のコク深さはスープがアッサリしていることによりひと際強く感じられる。かつてのテレビ企画で全国ラーメンランキングの1位に輝いた実績は伊達でない。

 

 

説明: syouyu_ra-men 「めじろ」

 受験生の聖地「代々木」に居を構える名店。「これが らーめん です」と書かれた暖簾を見て、生物学の賢人エルンスト・マイアの生物哲学書「This is biology」を思い出した。ラーメンは煮干ダシをこれでもかと言わんばかりに効かせた鶏ガラスープ。器の底に大量に沈殿する煮干粉がそのダシの強さを物語っている。おそらく、ご主人には独自の「ラーメン哲学」があるのだろう。チャーシューは噛み応えのある肩ロースで私好みの一杯。

 

説明: syouyu_ra-men 「はやし」

 ラーメン激戦区「渋谷」にあって、いま一番の人気を誇るお店。ラーメンのラインナップは3種類しかない。デフォは鶏ガラ魚介系の醤油ラーメンで、これに味玉か焼き豚が加わったものといたってシンプルだ。見た目もオーソドックスであるが、実はこのラーメンドンブリはこだわりの器を使っているらしい。麺の11本がしっかりとしており、濃厚なスープによく絡む。奇をてらうことなく職人気質で作りこまれた1品と言えよう。

 

説明: syouyu_ra-men 「不如帰」 

 幡ヶ谷商店街の小さな横路地を入ると屋号を表す有名な俳句「鳴かずとも 鳴かせてみせよう 不如帰」が暖簾にかかる。「豚清湯系 貝汁そば」と称するラーメンは豚骨とハマグリの出汁をベースとする超あっさり系。貝出汁を堪能するために塩ラーメンを注文。そのあっさり味にアクセントをつけるのがチャーシューだ。このチャーシューを一言で表すなら「端正なチャーシュー」という形容が相応しいだろう。薄ピンク色に照り輝くチャーシューは見た目の美しさもさることながら、味加減が薄味スープと絶妙にマッチする。おもわず「旨い!」と鳴いてしまう一品だ。

 

説明: syouyu_ra-men 「旬麺 しろ八」

店主はCO2の排出削減を目指す「チーム・マイナス6%」のメンバーだけあって、地球環境への拘りも徹底している。割り箸を一切使わないのは言うまでもなく、「旬麺」の名が示すように、旬の無農薬有機野菜のトッピングに温暖化防止へのメッセージが込められている。旬を食すこと、是すなわち、自然のエネルギーを有効利用することにほかならない。何の味付けもされていない生野菜には最初戸惑いを感じたが、不要な味つけがされていないからこそ、野菜本来の甘みを味わうことができる。食後に胃がもたれることもなく、体と地球に優しいロハスなラーメンである。

 

説明: syouyu_ra-men 「かづ屋」

 目黒にある有名店。寄生虫の研究で目黒寄生虫館を訪ねた際に、立ち寄ってみた。煮干と鰹節のダシが利いてきりっと引き締まった醤油スープに縮れ麺の組み合わせ。洗練された技によって、古きよき東京ラーメンの味を再現している。ラーメン激戦区にあって、高いレベルを誇っている。

 

説明: syouyu_ra-men 「いちや」

江古田のライブハウスでジャズの生演奏を楽しんだ帰りにふらっと立ち寄ったお店。ここは、かつて会員制で敷居が高かったようだが、今では誰でも気軽に入れるようになった。ナルトこそ載っていないが、正統派のあっさり東京ラーメンが味わえる。「ジャズ」と「ラーメン」、全くベクトルが違う組み合わせのように思えるけど、じつは相性抜群。だって、最近の洒落たラーメン屋って、みんなBGMにジャズを流すでしょ。

 

説明: syouyu_ra-men 「二代目海老そば けいすけ」

東京ラーメンを極めていくとある理想型に収斂していく。いま、美味いと目されているラーメン店の多くがそのような状態にある。その一方で、全く新しいラーメンの形というのが派生していく。これぞラーメン界の進化と言ってよいだろう。高田馬場にある「二代目けいすけ」のラーメンはそのような派生型の一品である。「初代けいすけ」が全く新しいラーメンの形として創作したらしい。まず、そのスタイルは、全てにおいて定石が通用しない。カウンターからラーメンが出されてまず一驚。器が傾いているのである。正確に言うと、器が傾いているのではなく、器の開口部が傾いているのである。小学生の頃に入ったビックリハウス(床は水平だが壁や窓が傾いているため、家全体が傾いているような錯覚に陥るやつ)を思い出した。次に、スープをすすろうと蓮華を手にとって再び驚愕。「で、でかいっ!」、蓮華が通常の3倍はある。高田馬場だけにジャイアント馬場仕様になっているのか?(我ながらセンスのないダジャレで申し訳ない、、、)。麺は平打ち、スープの色は醤油系と見た目は普通だが、一口、スープを味わうと、これまでのラーメンとは全く違う、しかし、どこかで経験したことがある不思議な味。香ばしく焼いた海老に柚子の風味、糸唐辛子でピリ辛のアクセント。そうだ、これはタイで食べたトムヤムクンに似ている。まさにトムヤムクンをマイルドにしたような味わいだ。具も海老ワンタン、鶏チャーシュー、メンマの代わりに山クラゲと変り種が満載。しかし、決して邪道系ではない、完成度の高い一品である。まあ、ジャンルとしてはラーメンというより「アジアンヌードル」と呼んだ方がよさそうだが、ラーメンの進化は果てしなく続きそうだ。

 

千葉

 私は学部生時代、千葉の野田に住んでいた。野田と言えば、醤油の町、そして、キッコーマンの町である。夏になると、風に乗って、どこからともなく大豆を茹でた独特の匂いが漂ってきた。あの匂いを嗅ぐと、青春時代を思い出す。まだ、ラーメン・ブームなど無かった時代だから、たいしたラーメン屋はなかったけど、今、あの一帯はどうなっているのかな?栄えているのだろうか?それとも、廃れているのだろうか?久しぶりに、訪れてみたい気がする。

 

説明: syouyu_ra-men 「ゆうゆう」

  学生時代の「食」と言えば、安さとボリューム重視だった。ラーメンと言っても行き付けは、とにかく腹いっぱい食べられるチェーン店の「珍遊」や「じん」だった。そんな、学生時代に唯一、旨いラーメンを食べるためによく通ったお店が「ゆうゆう」である。たしか、漢字の店名だったが、もう忘れてしまった。場所は山崎のマツキヨの斜め向かい。ここのオススメは半チャン・セット。チャーハンをレンゲで口に運び、間髪入れずにスープをすする。チャーハンの炒め油とスープのダシが絶妙に絡み合い、えも言われぬハーモニーを奏でていた。このお店は、まだあるのだろうか?

 

茨城

 「じーんせーい、楽ありゃ、苦ーもあーるさー」 そう、ここは水戸黄門さまでお馴染み水戸光圀公生誕の地。井川慶(元阪神タイガース)を育んだ「だっぺ(茨城の方言)」の故郷でもある。茨城と言えば、やはり納豆だが、さすがに納豆ラーメンというのにはお目にかかれなかった。最近、ご当地ラーメンとして水戸藩ラーメンなるものを売り出しているらしい。何を隠そう、黄門様は日本で初めてラーメンを食した人物なのである。

 

説明: syouyu_ra-men 「松五郎」

 他県から来た人にとって、水戸­=水戸藩ラーメンと思われがちだが、水戸のご当地ラーメンと言えば、スタミナラーメンを指すそうだ。ラーメンの上に野菜やレバーを炒めた餡がかけられた、所謂「餡かけラーメン」である。平日の昼だというのに行列ができるあたり、地元での人気の高さが伺える。しかし、店内には、ある種異様な空気が漂っている。行列ができているからといって店員がテキパキと捌くふうはなく、店主にいたっては超マイペースで餡かけを炒めている。どの客も私語ひとつなく押し黙っている。カウンターの貼り紙には「撮影禁止」の文字が躍るが、はたして、私語も厳禁なのだろうか?パンチパーマに丸太のような太腕の強面店主の顔を一瞥しながら、これ以上の詮索は危険と判断。とりあえず、ラーメンに専念することに、、、。餡かけラーメンと言うと、中華料理屋の味付けを想像しがちだが、ここのラーメンのベースは節系でダシをとった濃い目の和風醤油スープ。その意外性に小さな驚き。まあ、話のネタに一度は訪れて欲しいお店である。

 

説明: siora-men 「吟。」

 「ぎん」ではなく「ぎんてん」と読むらしい。他の店もそうだったが、茨城のラーメン屋はどこもマイペースである。まず、行列ができようが、客を待たせようが、先客が捌けるまでは注文すら取ろうとしない。こちらから注文するべきか、待つべきか、悩ましいところだが、そこは「郷に入っては郷に従え」、周りの客を見渡しながら待ちの姿勢に徹することに。ホタテやエビをはじめとする多様な具材からとった濃い目の塩スープが弱いうねりの効いた太麺とよく絡む。塩加減がかなりしょっぱかったのが残念なところだが、総合的なレベルは高いと感じた。