山梨

 甲斐の国、山梨は何を隠そう私の生まれ育った故郷。「人は城 人は石垣 人は堀 情は味方 仇は敵なり」でお馴染み武田信玄侯の生誕地でもある。山梨の麺料理と言えば、放蕩。でも、何と言ってもラーメンゲリラのルーツは我が家で食べた「サッポロ一番 味噌ラーメン」。

 

 「あかつき食堂」

  私の実家のすぐ近くにある穴場的なお店。おそらく、地元の人かよほどのラーメン通でないと場所が分からないだろう(自分で探してみてね)。ここのラーメンは、昔懐かしい味がする。我が家(実家)では朝の味噌汁のダシを煮干で取る習慣がある。ほのかに漂う煮干の風味に透き通った醤油スープは、最後まで飲み干せる癒し系の故郷ラーメンといった趣か。トッピングのチャーシューは豚の旨みが濃厚に凝縮されているので、あっさりスープとのコントラストがまたよい。ここは、定食や一品料理も充実しており、故郷の味「もつ煮込み」もお奨め。

 

長野

 長野といえば、謂わずと知れた蕎麦処。私の故郷、山梨のお隣にありながら、ラーメンに関してはほとんど未開の地。しかし、蕎麦の文化の発達したところには、かならず旨い出汁があるはずだ。美味いラーメンを求めて、信濃路の旅は始まる。

 

 「こうや」

 

小ぢんまりとした店内で眼光の鋭い若いにいちゃんが切り盛りしている。一見、愛想は悪いが、その繁盛ぶりからして味は確かなようだ。ここの一押しは「こってり背脂正油ラーメン」、しかし、来々亭を髣髴とさせるそのいでたちから今回は「こってり」をパスして「あっさり塩ラーメン」を注文。塩辛い味付けを好む長野県らしく、スープはやや塩辛いが魚介ダシが効いて輪郭がはっきりした印象。麺は弱いうねりの入った細麺だが、やや腰が弱く柔らかすぎたのが残念。スープが旨いだけにもったいない。とは言え、上田の田舎町にしては、なかなかのレベルといってよいだろう。

 

新潟

 新潟と言えば、米どころ、そして、酒どころ。居酒屋で「越之寒梅」が1杯500円で飲めるのには驚いた。東京なら、1杯千円はくだらないだろう。この不合理な流通経済システム、何とかならないものか。居酒屋の女将が〆の一品に出してくれた筋子のオニギリ、地元のお米に地元の魚介、地産地消の原則こそ社会経済と環境問題を融和する唯一の解決策なのだろうと小難しいことを考えながら、新潟の味覚を満喫した。ラーメン?もちろん、美味しかったですよ!

 

 「ラーメン いっとうや」

新潟駅からさらに何駅か電車に揺られながら閑静な住宅街に降り立った。ラーメン店が軒を連ねる繁華街とは程遠い佇まいに戸惑いを覚えながら、地図を片手に歩くこと30分(遠いなあ)、ようやく目的の店に辿り着いた。さて、結論から言おう。ここは私がこれまでに食べたラーメンの中で三本指に入るインパクトの強いラーメンだった。まず、スープ。豚骨・鶏ガラの獣系と魚介系を合わせた、いわゆるダブルスープ。しかし、単なる流行の追随ではない。ここの鰹ダシの濃厚さは類を見ない。得てして、鰹を効かせすぎるとダシがましくなるものだが、獣系スープを絶妙な混合比率で合わせることによって豚や鶏の持つ甘みと見事に調和したまろやかな味わいを創り出していた。麺は中太でややうねりのきいた熟成多加水麺。3日間も寝かせるらしい。シコシコとした食感というよりはずっしりと密度の詰まった噛み応えのある麺だった。そして、メンマ。これまでに見たことのない大きさ(名刺サイズ!)と厚さだった。極めつけは、炭火で炙った厚切りチャーシュー。厚切りチャーシューはたいてい柔らかチャーシューと相場が決まっているものだが、ここのチャーシューは厚いのに肉々しい食感を残しており、チャーシューと言うよりは豚ステーキという表現がピッタリの個性的なアイテムだった。スープが売りとか、チャーシューが売りとかいう店はよくあるが、全ての具材が強烈な個性を発揮している店というのは、そうそうあるものではない。色物系と思われるかもしれないが、実際に食べてみると、個々のパーツが主張しすぎることなくまとまった完成度の高いラーメンであることが判る。店長は、かなり若そうだ。今後も柔軟な発想で、新しいメニューを開発してくれそうな予感がする。

 

 「浦咲」

 「ラーメン いっとうや」を剛とするなら「浦咲」は柔である。麺はややうねりの効いた細麺。チャーシューは阿賀北産豚を使用した脂身のしつこさがない薄切りチャーシュー。スープは控えめに魚介ダシが効いた薄口あっさり醤油味。一口食べた時、「あれっ?」と思った。ここのラーメンは人気の割にはたいしたことないなというのが最初の印象だった。しかし、箸を進めるにつれ、このお店の人気がなぜ高いのか実感することができた。その仕掛けはトッピングの佐渡産生ワカメ。このワカメからミネラルが徐々に滲み出しスープ全体が柔らかな磯の香りに包まれていくのだ。なるほど、スープのダシを控えめにすることによって、この微妙な演出が活きてくるのかと感心した。飲んだ翌日の一杯だったので、このあっさり感がとても心地よい癒し系のラーメンだった。