福岡

福岡と言えば、博多ラーメン。豚骨ブームを巻き起こし、数多くの名店が東京に進出した。幼いころから博多ラーメンに慣れ親しんでこなかったせいか(「うまかっちゃん」は一時期よく食べたけど)、あまり思い入れがない。味の違いもイマイチよく分からない(博多の人、ごめんなさい)。でも、九州の人間に言わせると、醤油ラーメンは味がしないから食べた気がしないらしい。どうやら、嗜好性というものは、後天的な環境要素が強く影響するようだ。

 

 「一風堂」

博多ラーメンの代表格。現在は全国区の知名度を誇る。松山にも暖簾分けの店が沢山あるので、そのルーツが知りたくて本店に行ってみた。「うーん、忠実に味が再現されているなあ」。一風堂はよその県でも何ヶ所か回ったが、どこもそつなく旨い。悪く言えば、個性がないのだが、チェーン展開して味が落ちる店が多い中で、本店の味を維持できるというのは凄いことだと思う。河原さんに脱帽。

 

 「元気一杯」

このお店、地図を片手に探し回ったが、なかなか見つからない。それもそのはず、暖簾や看板が一切出ていないのだ。意図的なのだろうか?ここの店主はラーメンの食べ方に相当の拘りがあるように見える。何やら、「まず、スープを味わえ」だの貼り紙に色んな薀蓄が綴ってある。まっ、無視しつつ(言われなくても、私はいつもスープから味わっている)、ひと啜り。「おぉ、濃厚だあ!」レンゲに骨粉が残るほど旨み成分が抽出されている。ひょっとすると、隠れた名店というやつかもしれない。と、旨いラーメンを味わっているその途中、同行した学生が会話の流れで大笑いした。すかさず、「当店は大笑い禁止でーす。笑いたければ、外に出て笑ってきてくださーい」と厨房から声が聞こえてきた。この一言で、「ラーメン行脚」一行のテンションはダダ下がり。せっかくの旨いラーメンもこの一件で後味の悪いものになってしまった。押しつけがましいのも、いかがなものか。もっとも、「ラーメン行脚」は旨いラーメンを食べることが目的だから、旨ければそれでよいのだが、、、。

 

 「麺劇場 玄瑛」

暖簾も提灯も出ていない店の門前には「開演」とだけ記されている。およそラーメン屋とは思えない重厚そうな扉を恐る恐る開けると眼前にはいきなり黒い壁、、、。はて?と思いつつも「順路」の案内に従って黒壁をぐるりと巡回すると、その先には、まさにシアターのような観客席が設えてある。その舞台に当たる部分がちょうど厨房になっており、客席から店主の一挙手一投足を鑑賞しながらラーメンを楽しむ趣向。なるほど、「麺劇場」とはそういうことか!と納得。ここのラーメンはマー油の効いた豚骨ラーメンで博多ラーメンというよりは熊本ラーメンに近い。それもそのはず、店主は熊本出身とのことだった。秀逸は麺。厳選されたオーストラリア産小麦「龍翔」を用い、1週間寝かせた熟成細麺は跳ねるような食感と言ったらよいだろうか。食べ終わると、スタッフが出口まで案内してくれる気配りもにくい。そして、出口には「終劇」の二文字、お後がよろしいようで、、、。

 

 「博多中華そば まるげん」

博多では珍しい中華そばが食べられるお店。枕崎の鰹節や長崎産のあご干しなど九州特産の魚介ダシを惜しげもなく使用したコクのあるWスープに特性の太平打麺がよく絡む。豚骨ラーメンに飽きたら、ここを訪れると良いだろう。

 

大分

大分には独自のラーメン文化がないらしく、中途半端な博多ラーメンみたいなのが多い。何軒も回ってみたが、当たった試しがない。しかし、最近、ニューウェーブ系が出現した。今後の発展を期待したい。

 

 「麺堂 香」

魚介の合わせダシを使ったニューウェーブ系の醤油ラーメンが食べられるお店。チャーシューもスモークしてあり、レベルの高さを感じる。残念なのは、チェーン展開していることだ。私は、いわゆる「チェーン店」というのが好きではない。個性がないことと店長にラーメン魂が入ってない場合が多いためである。私がちょうどラーメンを食べている時、取材とか何とかで社長らしき人が味のチェックや段取りの指示をしていた。ラーメンは経営ではなく、文化であって欲しいと願っている。

 

宮崎

宮崎では行脚(野外調査)日程の都合上、数件しか回れなかった。残念ながら、心を揺り動かすラーメンには出会えなかった。実は、どうしても行ってみたい店があったのだが、移動の時間が押していたため、断念せざるを得なかった。それもこれも、宮崎の道路事情が悪いのが原因だ。「おい、宮崎県、高速道路とまで言わないが、二車線のバイパスぐらい作ってくれ!」。ちなみに、松山に「日向ラーメン」を食べさせてくれる店があるが、博多ラーメンに醤油が加わり濃い目の味付けになったものという印象。

 

鹿児島

 薩摩の人は皆、顔が濃いなあ。男性は「西郷どん」、女性は「はしのえみ」みたいな顔をしているぞ。まあ、そんなことはどうでもよいが、九州も鹿児島まで南下してくると、同じ豚骨ラーメンでもだいぶ趣が変わってくる。これぞ「食文化の地理的変異」。意外だったのは、豚骨ラーメンは南下するにしたがって、こってり度が増していくものと思いきや、鹿児島まで来ると和風ダシ(昆布、椎茸、鰹など)の利いたあっさり系のお店が多くなることだ。

 

 「豚トロ ラーメン」

鹿児島では珍しい(?)、こってり系のお店。数年前にできたらしい。私は、鹿児島大の学生からの口コミで聞いた。名前の通り、チャーシューがトロトロにとろけそうだった。

 

 「こむらさき」

鹿児島あっさり系豚骨の代表格。和風ダシの効いたスープが美味しい。他の店もそうだが、鹿児島ラーメンは野菜をトッピングするところが多く、これがあっさり感をさらに際立たせている。ちなみに、鹿児島の有名店はどこも値段が高い。ラーメンは庶民の食文化である。何とかならないものか。

 

 「ラーメン専門店 鷹」

鹿児島では珍しい、醤油ラーメンが食べられるお店。ラーメン専門店と冠するだけあって、メニューは「ラーメン」と「メシ」のみである。こういう拘りは好きだなあ。昔、「男おいどん」という漫画の中で、貧乏な主人公「おいどん」が、日銭を得ると大好きな「ラーメンライス」を頬張って、ささやかな贅沢を満喫するというシーンがよく出てきた。子供心に「ラーメンライス」を食べたいなあと思ったものだ。確か、「おいどん」は九州男児だったはず。まっ、昔話はともかく、感想を一言。ラーメンは正統派の醤油ラーメンで、ほのかにまとわりつくようなコクが感じられた(バターが入っているのかな?)。鹿児島で「醤油ラーメン」という意外性で取り上げてみた。ちなみに、「鷹」は複数あり、私が行ったのは、有名な店の方ではなく、アーケードの横の路地にあるこじんまりとした店の方である。両者の関係はよく分からない。

 

熊本

 熊本はおそらく九州の豚骨系の中で最もこってり度の高い地域だと思う。その「こってり」の秘密は、マー油と呼ばれるニンニク油にある。これが入ると、そうでなくてもこってりした豚骨スープにさらにパンチが効いてくる。さすがは、火の国だ。

 

 「黒亭」

熊本ラーメンの代表的なお店。マー油に加えてニンニクチップもトッピングされている。有名店だけあって混雑も相当である。

 

 「桂花」

いわゆるマー油の効いた熊本ラーメンとは一線を画すオリジナリティの高いラーメン。「こってり」であるが、トッピングされた刻み野菜がその「こってり」を絶妙に中和してくれるため、食後感は思ったほど重くない。京都でも支店を見かけたことがある(確か、東京にも支店があるはず)。

 

長崎

長崎の女性は色白で綺麗だ。「長崎の女」とはよく謳ったものだ。それはさておき、長崎と言えば、やはりチャンポンだろう。たしかに本場のチャンポンは旨かった!しかし、持論として、チャンポンはラーメンとは別物と考えている。したがって、ここではチャンポンの旨い店は紹介しない。ちなみに、長崎のラーメンは麺が柔らかい店が多い。どこか、松山に通ずるものがある。

 

 「あごだし」

長崎市内ではなく、佐世保にあるお店。佐世保と言えば、アメリカ海軍の駐留基地があるところ。至る所に、セーラー服を着た水兵さんが歩いている。そんな土地柄か、この店の主人はかなりファンキーないでたちだ。店に貼られたコンサート情報のチラシを見ると、どうやらジャズ・ミュージシャン、あるいは、ジャジーな人のようである。こんな人に旨いラーメンが作れるのかと一抹の不安を覚えたが、食べてみて安心した、いや、感心した。非常に旨い!作りも丁寧で、味も繊細である。特に、スープが美味しい。店名にあるようにアゴ(トビウオ)節でダシをとっているらしい。さすがは、対馬海流でもまれた身の締まった魚、素材の良さを実感した。

 

沖縄

琉球の麺文化と言えば、「ソーキソバ」。スペアリブの載ったラーメンという捉え方もできるが、色々賞味した結果、ソーキソバは「ラーメン」ではなく琉球の「蕎麦」であるという結論に達した。ラーメン店も何軒か回ってみたが、様々なご当地ラーメン店が乱立状態だ。地理的な関係からか、やはり九州豚骨の影響が強い。

 

「琉球新麺 通堂(とんどう)」

こってり豚骨の「おとこ味」とあっさり塩味の「おんな味」から選べる。「おんな味」で用いられる自家製平打麺はツルツルとした歯ごたえで沖縄ソバの食感に似ている。3種類の沖縄産塩をブレンドした塩スープはあっさりだが、豚骨・地鶏・カツオのダシがよく効いていて飽きがこない。昆布ダシがよく滲み込んだ冬瓜のトッピングは奇抜でオリジナリティの高いアイデアだ。比較的新しくできたお店のようだが、琉球テイストを堪能させてくれる。

 

 「麦麦(ばくばく)」

那覇市内にあるお店。ラーメンの味、サービス形態(トッピング自由)などから博多系を導入しているものと思われる。レベルもそこそこ高い。博多では、サービスとしてウーロン茶が出されることが多い(ただの水だと胃の中で豚骨の油が凝固してお腹を壊しやすいため)のだが、この店では、サンピン茶(ジャスミン茶)を出してくれるのが沖縄らしい演出だ。メンソーレ、沖縄!