愛媛

 愛媛の料理は何もかもが甘い。初めて来たとき刺身醤油が甘いのには、さすがに驚いた(今となっては大好きだが、、、)。ラーメンは九州の影響が強く、博多系やチャンポン系が主流である。もちろん、チャーシューもたいてい甘い。私が美味しいと思う魚介系醤油ラーメンは、地元の人間には「塩辛い」と感じるらしく、客がつかずに長続きしない。麺も柔らかい店が多く、これもお国柄なのだろうかと感じた。

 

 「春光亭」

魚介ダシが楽しめる数少ないお店。このお店ができた時、「こんな店を待っていたんだー!」と思わず心の中で叫んでしまった。とにかく、ダシが旨い!それもそのはず、ここの店主は、昔、料亭で修行していたのだ(まだ若いが)。魚介系だが、まろやかさがあり、醤油辛さはない。麺はややうねりの入った中太麺。スープ、麺、チャーシューのバランスがよく完成度の高いラーメン。これなら伊予っ子にもウケルだろうと思いきや、客の入りはあまり芳しくない。理由は味ではなく、場所の分かりにくさにあるようだ。以前、看板を立てることを進言したが、いまだ改善されていない。美味い店だけに影ながら応援したい。

 

 「おがた」

ここのご主人の本職は、焼き鳥屋である。焼き鳥屋の横に小さな屋台風の店を構え、夜8時以降になると店を開ける。あっさり系のスープにストレート細麺。何といっても特筆すべきは、炭火で炙ったチャーシューだ。本職で培った技術が活きている。炭火倶楽部会長としては、いつかこのノウハウを盗みたいと思っている。バリエーションはラーメンの「並」と「中」しかない。こんなに美味しいチャーシューなのだから、ぜひ「チャーシュー麺」というメニューを作って欲しい。最近、チェーン展開しているようだが、支店の味やサービスにはバラツキがある。これもチェーン店の宿命か。

 

 「一興」

数年前にラーメン界に旋風を巻き起こした「博多ラーメン」。そのブームの火付け役ともなった名店「一風堂」で修行した店主が独立開業したお店。愛媛には「一風堂」で修行を積んだ暖簾分けの店が幾つかある。店名こそ違うが、壁に「博多祇園山笠」が描かれ、品揃えが一緒なので一目瞭然だ。その中でも、この店が最も本家を忠実に再現していると思う。「こってり」が食べたいときは、ここに限る。「おがた」同様、チェーン展開しているのが気がかりだ。

 

 「周平」

 学会で帰松した折、ラーメンゲリラ・愛媛支部員から出店情報を聞きつけ来訪した。ここの店主は利酒師とワインソムリエの資格を持っているらしい。味にはこだわりがあるらしく、「たつみ醤油」を使用しているそうだ。スープを一口すすると貝柱の旨味が口中に広がる。ダシも厳選素材とのことで、瀬戸内産イリコ、熊本牛深産鯖節、北海道真折昆布などを惜しげもなく使っている。スープ自体は、魚介のあっさり系だが、表面に浮かべた多量の香味油が重量感を与えてくれる。そのため、自家製ストレート麺にもよく絡む。脂身の多いチャーシューとともに、ややくどいという感は否めないが、これまで愛媛にはなかったタイプのラーメンである。

 

「りょう花」

 愛媛県内に数多くの支店を持つ有名店。1号店がオープンしたときは、美味いけど、どこか優等生的でインパクトは必ずしも強くなかった。あれから10年、りょう花のラーメンは確実に進化し続けている。出汁を活かすために塩に拘る、旨み成分の凝縮した鶏ガラスープ。愛媛を代表するラーメン店にのし上がったのも、なるほど頷ける。これからも進化し続けて欲しいものだ。

 

高知

高知は長らくラーメン不毛の地だと思っていた。どの店で食べても不味い!そんなイメージを払拭する新しいご当地ラーメンが誕生した。須崎の「鍋焼きラーメン」だ。須崎は「カワウソの里」として有名だが、絶滅寸前(と言うか、おそらく絶滅)のカワウソにいつまでも頼っていたら、いかんぜよ。

 

 「橋本食堂」

土佐のご当地ラーメンと言えば、須崎町の「鍋焼きラーメン」だろう。その鍋焼きラーメン発祥の店(すでに閉店)の味を再現し、継承したのがこの橋本食堂。ひっそりした住宅街の中、平日の昼間だというのに、店の外まで客が溢れている。私は、最初、鍋焼きラーメンと聞いたとき、ただの「邪道系」かと侮蔑した。そうでなくても伸びやすいラーメンの麺を鍋でグラグラ煮たら、「グダ麺」になってしまうじゃないか!そう、思っていた。しかし、実際に食べてみて、改心した。鍋焼きラーメンの麺は煮込んでも不思議と伸びないのだ。スープは親子丼の汁のような甘辛い味付けで、チャーシューの代わりに、身の締まった親鳥の肉が載っている。肉の硬さは好き不好きだが、私はこのコリコリとした食感が結構好きだ。きっと、町おこしの起爆剤になるだろう。

 

 「自由軒」

松山から高知に抜けるルートは1つしかない。国道33号線だ。このルートは、距離が長い上に、食べ物屋が極端に少ないので、休憩所選びにはいつも一苦労である。そんな道中、人家もない切り立った断崖のくぼ地にポツンと一軒のお店が現れる。何故か、いつも車でいっぱいだ。何もない所だから、場末的なドライブインでも客が入るのだろうと思っていたのだが、どうやら、そうではなさそうだ。「チャーシュー麺」を注文してみた。素朴な昔風の中華ソバといった雰囲気で、あっさり味だが、丁寧に作られている。チャーシューはほのかに八角の甘みが効いた固めの肩肉で私好みである。「どうせ不味いだろう」、そんな固定観念を払拭する意外性と長旅を癒してくれる懐かし系ラーメンに一票投じたい。

 

徳島

松山に住んでいた私にとって徳島は同じ四国にありながら、近くて遠い存在だった。松山と四国はちょうど対角線上に位置し、直線距離では、さほど遠くないのだが、道路事情の悪い四国で国道を走るとそれだけで半日がかりの仕事だった。そんなわけで、徳島のラーメンはまだあまり食していない。とりあえず、ご当地ラーメンとしての正統派「徳島ラーメン」を体験してみた。

 

 「いのたに」

徳島ラーメンの中でも知名度の高いお店。横浜・ラーメン博物館にも出店している。スープの味付けが濃く、甘辛い。チャーシューではなく、豚バラ肉のスライスを醤油で味付けしたものが載っているのが徳島ラーメンの特徴だ。生卵のトッピングをすると、もはや「すき焼」的な趣向さえ感じられる。あっさり好きの私には、若干、抵抗があるが、今後は何件か食べ較べをしてみたい。

 

香川

香川と言えば、「讃岐うどん」。県民総うどん党で、日曜日のお昼は必ずうどんを食べるそうだ。折からの讃岐うどんブームで、有名店は異常なまでの混み具合。私は某店に行って3時間ほど並んだことがある。まあ、美味しいから、文句言えないのだが、、、。犬も歩けばうどん店に当たる、そんな土地柄なので、香川に行くとラーメンではなく、ついつい、うどんを食べてしまう。というわけで、香川ではまだラーメンを食べていない。いや、正確に言うと、1軒行ったのだが、残念ながら閉店済みだった。次回、チャンスがあれば、この店を再訪してみたいと思う。

 

 「はまんど」

香川までわざわざ食べに行ったのに閉まっていたお店。お昼過ぎには、閉まってしまうようだ(*夜に別のお店を開いているらしい)。ここの店主は、テレビチャンピオンの「うどん王」に輝いたことがある華々しい経歴を持つ。うどんを極めたので、次はラーメンを極めたいとのことである(やはり、讃岐うどん恐るべし)。ここのラーメンの特徴は、うどんのような麺打ちを行い、麺がうどんのような食感であるということ。スープは魚介系をふんだんに使い、うどんのような和風ダシである(なら、うどんを造ればいいじゃないかと思うのだが、、、)。このように書いたが、実は、まだ食べていない。早く「うどん王」の作るラーメンが食べてみたい。