宮城

 京都で出会った一軒のラーメン屋「ちえぞう」。あのお店のご主人は、たしか青森の出身だったような気がするが、「これはみちのくラーメンだよ」と言って出してくれたラーメンのことははっきりと覚えている。その「みちのくラーメン」のルーツを探ってみたくなり、この地を訪れた。

 はたして、みちのくラーメンはどの店もレベルが高かった。その理由は、明快だ。宮城と言えば酒処。美味い酒を造るには、美味い水が欠かせない。そして、三陸で獲れた美味い魚が酒の美味さを際立たせてくれる。「美味い水」に「新鮮な魚介類」、これは美味いラーメンを造るのに欠かせない条件と言えよう。今回、何軒か回ってみたが、特筆すべき2店を紹介したい。

 

 「中華 仙臺(せんだい)そば」

 「あっさり」は塩味のみで醤油味のメニューは「こってり」とのことだったが、「あっさり醤油にして欲しい」と無理を言ったら、すんなりと注文を受け入れてくれた。さすがは、東北人らしい、寡黙だが親切な人柄が滲み出ている。ここのラーメンは、麺・スープ・具の全てにおいて最高のレベルに達していた。それもそのはず、産地厳選の煮干、鰹節、鯖節、真昆布でふんだんにダシを取ったスープ。かん水を全く使用せず、つなぎに卵を使ったややうねりの入ったシコシコ麺。細切りのコリコリとした歯ごたえのシナチクとややしょっぱいが咬み応えのある固めの厚切りチャーシュー。どれを取ってもご主人のこだわりが感じられる一品には、脱帽させられた。

 

 「北○」

 仙台市内の繁華街にあるお店。「仙臺そば」が魚介ダシを前面に押し出したラーメンであるのに対して、こちらはほのかに煮干を利かせた味わい。魚介が主張しすぎないことによって、逆に、鶏の甘みが際立ち全体的に柔らかな印象に仕上がっている。飲んだ後に立ち寄りたいお店である。

 

岩手

 岩手の三大麺と言えば「冷麺」「ジャジャ麺」「わんこ蕎麦」。ラーメンはやや影が薄い。「みちのくラーメン」と聞くとイリコの効いた醤油辛いラーメンを想像しがちであるが、盛岡ラーメンはアッサリタイプか甘めのものが主流で魚介ダシは強くない。内陸部という土地柄が関係しているのだろう。ちなみに、私が訪問したお店の多くが女将さんによって切り盛りされていたのは、勤勉な女性が多い県民性か、それとも、単なる偶然か?

 

 「はすの屋」

盛岡を代表するラーメンを1つ挙げるなら迷わずここをお奨めする。老舗の「中河」や「日光軒」が伝統を忠実に守った「昔ながらの中華ソバ」であるなら、ここは「昔ながらの味を追求した温故知新の中華ソバ」といった趣き。ここの支那ソバは、これまで食べたラーメンの中でも一、二を争うほどの超アッサリ味であるが、澄み切ったスープには気品さえ感じる。スープから油を極力取り除くことによって、ほのかに漂う出汁の旨みが逆に味覚を覚醒させる。「何も足さない、何も引かない」とはどこかの酒造会社の謳い文句であるが、まさにこのフレーズがぴったり当てはまる。なお、テーブル胡椒は京都産の最高級品を使用しているとのことで、独特のピリ辛感が味蕾を刺激する(これも計算だろう)。気さくな女将さんの笑顔に星3つ。

 

青森

 青森県って、土地柄も人柄も本当に純朴でいいなあ。ラーメンにも、その純朴さが滲み出ている感じ。そう言えば、「ちえぞう」のご主人は青森県出身だが、「ちえぞう」のラーメンとは明らかに何かが違う。青森のご当地ラーメンは「津軽ラーメン」と呼ぶらしく、「みちのくラーメン」とは一線を画すようだ。

 

 「いわき食堂」

 弘前駅前からバスに揺られること30分、荘厳な「岩木富士」の麓に構えるラーメン屋。縮れの効いた麺に煮干ダシの澄んだ醤油スープ。これぞ定番の「津軽ラーメン」と言ってよいだろう。青森に来たなら、まずここのラーメンを食すべし。

 

 「支那そば おぐら」

 弘前駅からローカル線を乗り継いで降り立った無人駅、見渡すかぎりの田園風景を眺めながらテクテク歩くと稲刈りを終えたばかりの田んぼから夏の終わりを惜しむ虫の音色が淋しげに響き渡る。「あー、なんて長閑なのだろう」、これぞ「ぶらり一人旅」の醍醐味。職場での喧騒を忘れさてくれる瞬間だ。ほどなく現れる小さな集落を抜けると小ぢんまりとした佇まいのお店に行き当たる。地元民と思しき常連客がひっきりなしに訪れる隠れた名店だが、家族経営の店の切り盛りはいたってマイペース。何から何までほのぼのしている。麺は喉越しの良い自家製手打ち麺。スープは最後の一滴まで飲み干せる優しい味。「津軽ラーメン」=「癒し系ラーメン」と言える一品。