「鳥類による水域から陸域への物質輸送とその影響」
亀田佳代子(滋賀県立琵琶湖博物館)
生態系間を移動することによって、複数の系をつなげる働きをもつ生物は、モバイル・リンク(mobile link)とも呼ばれ、その機能について、さまざまな研究が行われている。その中でも、飛翔能力があり比較的自由に系間を移動することが可能な動物が、鳥類である。鳥類は、生物や物質を運搬する機能を持つことが多いが、中でも「モノ」を運ぶはたらきは、生態系や生物間の相互作用を大きく改変することがある。今回の発表では、鳥類による物質輸送の機能を中心に、水域から陸域への物質輸送における鳥類の役割とその影響につい
て解説する。多くの水鳥・海鳥類は、水域を餌場としながらも、繁殖時には陸上あるいは沿岸部を利用する。このことによって、水鳥・海鳥類は、水域から食物として物質を取り出し、排泄物などの形で陸上へと物質を運ぶ。特に海鳥類は、魚類などの動物を捕食する高次消費者であり、その排泄物には窒素やリンなどの養分が多く含まれる。彼らの多くは集団で営巣を行うため、営巣地には、局所的に多量の養分が供給されることになる。このことによって、陸上の物質循環や生物量、食物網などが、さまざまな影響を受ける。また、陸上に供給された養分は、再び水域へと流出することによって、営巣地周辺の水域にも影響をおよぼすこともある。
今回の発表では、まずは海鳥類を中心とした研究例を紹介し、海洋島や沿岸部などでの影響を解説する。次に、演者らが行ってきた琵琶湖でのカワウによる物質輸送研究について紹介し、琵琶湖でのカワウの捕食や生息状況を交えながら、淡水域から森林への養分供給の影響について報告する。