「生物のホメオスタシスを考慮した生態学研究」

 

加藤聡史(龍谷大学)

 

 生物の体は様々な元素によって構成されている。生態学における生物の成長や相互作用などについての研究では、しばしば光合成を基点としたエネルギーの

流れが扱われる。しかし実際には、エネルギーだけでなく複数の元素がそれらのプロセスを制約することはよく知られている。生態化学量論的アプローチによる研究は、主に水界の生物と陸上昆虫をモチーフにして近年発展してきたが、その基本的なアイデアは生命活動を化学反応の総体としてとらえ、反応前後のマスバランスを考慮する点である。

生態化学量論において「ある元素が生物のプロセスを制約している」というとき、それは、その生物にとって資源のバランスが最適でないという状況を表している。こうした状況に対して、生物はその最適でない元素のバランスを自身の内的環境に合わせて調節する様々なしくみを持っており、これはホメオスタシスの維持と呼ばれている。ホメオスタシスは生物自身の代謝や成長を考える際に重要であるだけでなく、生態系での物質循環を考える上でも非常に重要な概念である。

本発表では、まず、生物が持っているさまざまな元素バランスの調節方法についての事例研究を紹介する。後半では、生物の持つホメオスタシスの[強さ]を指標化する方法と、その指標を用いて演者らが昨年開催されたWoodStoich2009というイベントで行った、複数の生物分類群間でのホメオスタシス強度の比較研究について紹介する。

 

参考文献:

Andersen, T. 1997. Pelagic Nutrient Cycles: Herbivores as Sources and Sinks. Springer-Verlag, NY.

Frost, P. C. et al. 2005. Are you what you eat? Physiological constraints on organismal stoichiometry in an elementally imbalanced world. Oikos 109: 18-28.

Persson J, Fink P, Goto A, Hood JM, Jonas J, Kato S (2010) To be or not to be what you eat: regulation of stoichiometric homeostasis among autotrophs and heterotrophs. Oikos in press.cata martensii. Mar. Ecol. Prog. Ser. 192: 195-202.