「日本におけるオオクチバスフロリダ半島産亜種の増加現象の解明」
北川忠生(近畿大学農学部環境管理学科)
1925年に日本へ持ち込まれたオオクチバスは全国で大きな食害と在来生態系の破壊をもたらしてきた。これまで問題とされてきたこれらのオオクチバスは,通称ノーザンバスと呼ばれる北米北部を原産とする小型亜種であるが,1988年通称フロリダバスと呼ばれるフロリダ半島産亜種の大型亜種の稚魚1,000尾が奈良県の池原貯水池に持ち込まれた記録がある。放流当時は原産地との環境の違いなどからフロリダバスの定着は困難と考えられていたが,1996・97年に実施されたミトコンドリア
(mt) DNAによる調査においてフロリダバスが先住のノーザンバスと交雑しながら定着していることが明らかとなった
(北川ほか, 2000)。さらに2003年に実施された調査では,同貯水池におけるフロリダバスのmtDNA遺伝子型頻度が集団の80%以上にまで達していること
(北川ほか, 2005),池原貯水池の下流に位置する三重県の七色貯水池の集団でも現在では50%以上がフロリダバスのmtDNA遺伝子型に占められていることが明らかになっている。さらに2000年以降には,近畿圏の他の複数の湖沼からもフロリダバスの遺伝子が検出されはじめ,琵琶湖においてはすでにフロリダバスのmtDNA遺伝子型頻度が20〜40%の頻度にまで高まっている。これらは,国内におけるフロリダバス遺伝子の増加を示唆するものであり,より大型のオオクチバスの亜種の定着・拡散は日本国内においてさらに大きな脅威となると予想される。
本研究では,池原貯水池,七色貯水池,琵琶湖を舞台に,1) 形態的に類似した2亜種の核DNAマーカーによる識別法の確立,2) mtDNAおよび新規核DNAマーカーを用いた集団遺伝解析によるフロリダバス遺伝子頻度の変化および2亜種の交雑状況の推定,3)
DNAマーカーによる亜種,雑種判定を併用した2亜種の生態学的比較を行い,フロリダバス遺伝子の増加様式と増加要因の解明を行っている。また,4) 近隣の湖沼における遺伝子型の分布調査から,フロリダバスの拡散状況・ルートの推定を行っている。上記はいずれも現在進行形であるが,現在までに得られている知見を紹介する。
<参考文献>
北川えみ・北川忠生・能宗斉正・吉谷圭介・細谷和海. 2005. オオクチバスフロリダ半島産亜種由来遺伝子の池原貯水池における増加と他湖沼への拡散. 日本水産学会誌, 71:
146-150.
北川忠生・沖田智昭・伴野雄次・杉山俊介・岡崎登志夫・吉岡 基・柏木正章. 2000. 奈良県池原貯水池から検出されたフロリダバスMicropterus salmoides floridanus 由来のミトコンドリアDNA.
日本水産学会誌, 66: 805-811.