「撹乱が群集構造に及ぼす影響 〜理論の検証から導かれるメカニズム〜」
森照貴(土木研究所自然共生研究センター)
撹乱と多様性(種数)の関係性には様々なパターンが存在し、中程度で種数が最大となるパターンの他に、正や負のパターンも数多く報告されている。この撹乱と種数の関係性の変異は、Kondoh (2001)やKadmon & Benjamini (2006)による理論研究によって説明されてきた。しかし、Kondoh (2001)とKadmon & Benjamini (2006)の二つの理論研究は、結果的に同じパターンを導くものの、仮定が全く異なっている。Kondoh (2001)は種特性に関して、全種がトレードオフ関係にあることを仮定しているのに対し、Kadmon & Benjamini (2006)は種の特性に種間で差がない中立性を仮定している。
この二つの理論研究の検証には、中程度で種数が最大となるパターンを示す群集を用いる。撹乱の強弱に応じて種数だけでなく、群集構造がどのように変化するのかを明らかにすることによって検証が可能となる。そこで、本研究では、付着藻類を餌資源とする河川底生動物群集(藻類食者群集)が中程度の撹乱で種数が最大となるパターンを示したことから、この群集を用いて、二つの理論の検証を行った。その結果、どちらの理論を用いても、撹乱に沿って変化する藻類食者の群集構造の変化を完全に説明することはできなかった。
そこで、本研究では得られた種の分布パターンおよび体サイズの結果から、全種がトレードオフ関係にないこと、また、どの種も種特性が等しいわけではないことが示唆された。藻類食者群集には、優占種(4種)と希少種(8種)が存在し、優占種4種はほとんどの河川に生息していたのに対し、希少種8種は撹乱の強弱に沿って種組成が変化していた。つまり、強撹乱のみ、もしくは弱撹乱のみ生息する希少種が存在し、撹乱の強弱に伴い希少種の置き換わりが生じていた。本研究で得られた群集構造のパターンから、この置き換わりは優占種が高密度に達し、群集が飽和した結果、希少種が優占種によって競争排除されるために生じることが示唆された。本研究から導かれたこのメカニズムによって、藻類食者群集は中程度の撹乱で種数が最大となるパターンを示したと考えられた。本発表では、各種の個体数や特性、密度に応じた体サイズの変化などから考えられた、撹乱と多様性の関係性をもたらす新しいメカニズムについて、議論を行いたい。
Kondoh M (2001) Unifying the relationships of
species richness to productivity and disturbance.
Proceedings
of the Royal Society of London Series B-Biological Sciences 268:269-271.
Kadmon R & Benjamini
Y (2006) Effects of productivity and disturbance on species richness:
A
neutral model. American Naturalist 167:939-946.