「安定同位体比から見た琵琶湖沿岸域におけるPOMの形成過程とその時空間変異」

 

酒井 陽一郎

 

懸濁態有機物(Particulate Organic Matter:以下POM)は、湖沼食物網の基盤となる重要なエネルギー源で、湖沼の沖帯では植物プランクトンがその大半を占めている。しかし、環境変異が高く、河川の影響を強くうける沿岸域においては、陸起源有機物や底生藻類の撹拌物などもPOMの主要な構成要素となりうることが知られており、その組成や量は時空間的に大きく変化すると考えられる。特に、陸起源の有機物は水域で生産された有機物よりも餌としての質が劣るとされており、その寄与率は食物網の構造や機能を知る上でも重要である。そこで我々は、炭素・窒素安定同位体比を用いて、琵琶湖沿岸域のPOM形成メカニズムの時空間変動を調査した。その結果、ほとんどの地点、季節において、POMは植物プランクトンと陸起源の有機物によって構成されており、付着藻類の寄与は少なかった。また、陸起源有機物が寄与するメカニズムは季節によって異なっており、流入負荷の高い5月においては集水域の水田からの流入が主要因となっていた。一方、流入負荷の少ない2月においては、他の季節に流入・堆積した陸起源有機物が波による撹乱作用を受けることで、その寄与率を増加させていることが明らかとなった。これらの結果に加え、本発表では、植物プランクトンの寄与率が変動するメカニズムについても報告をする予定である。