「寄生者が改変する森林-河川生態系:生態系間相互作用の包括的な理解にむけて」
Ecosystem alteration by
parasite: toward a better understanding of the interactions between ecosystems
佐藤拓哉 (京都大学 フィールド科学教育研究センター)
すべての生態系は開放系であるため、それぞれの生態系はその境界域をまたぐ様々な資源の移動によって複雑に結びついてる。本発表では、これまで見過ごされることの多かった寄生者が、森林と河川生態系をまたぐ大きなエネルギー流を駆動している事例を紹介する。
成熟したハリガネムシ類(類線形虫類)に寄生・行動操作されたカマドウマ・キリギリス類は、晩夏から秋にかけて山地河川に大量に飛び込み、河川の高次捕食者であるサケ科魚類の重要な餌資源になることがある (Sato et al.2008)。ハリガネムシ類が駆動するこのエネルギー流は、国内外の多数の山地河川でも生じていることが確認され、イワナ個体群の年間の総摂取エネルギー量のおよそ60%を占めている場合もあった
(Sato et al. in press)。
そこで私たちは、ハリガネムシ類による宿主の行動操作がサケ科魚類のみならず、河川の生物群集と生態系機能に与える間接的な効果を検証するために、河川に供給される陸生昆虫類をハリガネムシ類の宿主と非宿主に分けて、それぞれの供給量を操作する野外実験を開始した。その結果、宿主と非宿主の供給量の抑制に応じて、アマゴ(サケ科魚類)の成長量の低下、底生生物の群集構造の変化、および藻類現存量(河川の生態系機能の指標)の増大が起こる可能性が示唆された。
上記の研究結果や近年の研究をもとに、「生態系間相互作用の包括的な理解」という生態学一般の関心ごとについて、群集生態学・寄生虫生態学・生態系生態学の視点から議論を深めたい。
引用文献
Sato T., Arizono M., Sone R. & Harada Y. 2008.
Parasite-mediated allochthonous input: Do hairworms enhance subsidised
predation of stream salmonids on crickets? Canadian Journal of Zoology 86:
231-235.
Sato T., Watanabe K., Kanaiwa M., Niizuma Y., Harada Y.,
Lafferty K. D. Nematomorph parasites drive energy flow through a riparian
ecosystem. Ecology (in press).