「淡水Meiobenthosの位置づけについて」
田中亜季(大阪府立大学院理学系研究科)
Meiobenthosとは、1mmの篩を通過し、0.063mmまたは0.031mmの篩に捉えられる大きさの底生動物のことである。分類群としては、後生動物の多岐にわたり、カイ
アシ類、ワムシ、線虫、クマムシ、ミミズ、水生昆虫の若齢など、原生動物では、アメーバ、繊毛虫などが挙げられる。淡水域に生息するMeiobenthosは、その小さい体サイズを活かし、河川や湖沼などの礫・砂・泥などといった底質材料から構成される間隙中に存在している。河川や湖沼の研究で一般的な水生昆虫
(Macrobenthos)が、底質材料表層に分布しているのと比べると、Meiobenthosの分布域は、垂直方向、水平方向にも広い。
このように、広範囲にわたり生息するMeiobenthosは、影響の大小に関わらず、水界生態において重要な役割を果たしていることが考えられる。
例えば、河床間隙は、水質浄化の重要な場所として考えられているが、実質的には微生物(Microbenthos)が生物膜を形成し、有機物の無機化が行われている。しかし、この生物膜が厚くなってしまうと微生物群集への酸素や溶存有機物の流れが遮断されてしまうが、Meiobenthosが間隙中を動き回り微生物を捕食すると、浸透性が増し、酸素や溶存有機物が微生物群集に届きやすくなるといった効果がある(Fukuhara & Sakamoto, 1987; Brunke
& Gonser, 1997)。
また、Meiobenthosのある一群には、バクテリアや藻類を選択的に捕食する能力をもつことが知られており(Traunspurger et.al.,
1997)、微生物群集の生産・構成・バイオマスを変化させることが考えられる。
これらのことから、淡水環境を考える上で、Meiobenthosは底質間隙で行われているシステムを理解する際に考慮されなければならない存在となっているのにも関わらず、現在、日本において淡水Meiobenthosの研究は分布に関する研究を含めほとんど行われていない。
そこで、本研究では、溶存酸素、栄養塩、空隙率などといった様々な環境要因により変化するMeiobenthosの分布を明らかにするとともに、 Meiobenthos が水界生態に寄与するシステムを解明することを目的としている。今回は、淡水Meiobenthosの簡単な位置づけと分布について報告し、特に、日本の河川の中でも、水質ワースト1位であることが知られている大和川下流域で行った調査の結果を例にとり紹介する。また、伏流水の交換がよく、
Meiobenthosにとって好環境である木津川中流域の結果も合わせて紹介する。