琵琶湖固有カワニナ類の遺伝的分化と吸虫感染耐性

 

浦部美佐子(滋賀県立大学・環境科学部)

 

琵琶湖固有カワニナ類(ビワカワニナ亜属)は、湖内で唯一のspecies flockを形成し、形態や核型の顕著な多様性などの特徴を共有している。mtDNAは形態種とは関係なく非常に変異しており、系統解析には使用できない。核DNAやアイソザイムの解析結果からは、ビワカワニナ亜属はハベカワニナ種群とタテヒダカワニナ種群とに分かれることが報告されているが、この2つの種群間や、非固有種(カワニナ亜属)との系統的関連性はまだ判明していない。さらに、rDNAITS-1領域の解析結果では、ビワカワニナ亜属・カワニナ亜属ともに、過去に頻繁に二次交雑を起しているとみられ、このことが系統解析を更に困難にしている。

琵琶湖水系産カワニナ類からは1728種を越える吸虫が報告されているが、宿主の種多様性とは逆に琵琶湖内での多様性は低く、ひろく分布するのは2属のみである。そのうちの一種であるGenarchopsis goppoには、琵琶湖水系に少なくとも2つの隠蔽種(琵琶湖型と河川型)が分布する。どちらの隠蔽種も、第一中間宿主はカワニナ類、第二中間宿主はケンミジンコ類、終宿主はハゼ科魚類をはじめとする底生魚類である。ほとんどの吸虫と同様に、G. goppoも繁殖を阻害することによって宿主と厳しい共進化関係にあると考えられる。そこで、両隠蔽種の卵をカワニナ類に実験的に感染させ、これらの隠蔽種に対するカワニナ類の感受性を定量した。その結果、ハベカワニナ種群は琵琶湖型に高い感受性を持つが、河川型に対しては抵抗性があった。タテヒダカワニナ種群は河川型に感受性があり、琵琶湖型への感受性は未定量であるが、おそらく抵抗性を持つと考えられた。どちらの種群も、同一種群内の異種間や個体群間で、感受性にはほとんど差がなかった。カワニナ亜属は琵琶湖型には耐性を持ち、河川型に対する耐性は個体群によって異なっていた。すなわち、ビワカワニナ亜属ではG. goppoへの感染耐性は種群間での差にとどまり、同種群内の異種間や個体群間での変異は見られないが、カワニナ亜属では逆に個体群間で感受性の変異が見られることがわかった。これらの結果から、カワニナ類では寄生虫への抵抗性の進化様式が亜属間で異なる可能性が示された。