「河川生態系の環境構造と生物群集に関する基礎実習」

奥田昇(京都大学生態学研究センター)

 

実習期間:2005730日(土)〜86日(土)

開催地:京都大学理学部木曽生物学研究所(木曽福島町)

講師:永田俊・陀安一郎(京都大学生態学研究センター)、野崎健太郎(椙山女学園大学)、神松幸弘(総合地球環境学研究所)、宮坂仁・加藤元海(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

受講者:狩野 文浩辻 かおる戸瀬 浩仁京都大・理・3年)・石川 陽子京都大・農・3年)・前田 玄東京海洋大・水産・4年)・大槻 真紀横浜国大・環境情報・修士2年)・庄下 将志明治大・農・3年) 計7名

 

当センターの公募実習と京都大学理学部の陸水生態学実習の合同により、表記の実習を開催した。本実習の目的は、身近な自然である河川生態系の環境構造や生物群集について、体験を通じた学習を行い、生態学的な自然観を養うことにある。初日に陸水生態学に関する講義を行い、2日目に野外で生物採集と観察を行った。採集試料は研究所に持ち帰り、藻類の現存量推定や水生昆虫の同定などの実技講習に使用した。3日目から、受講者各自が設定した課題に沿って研究を進め、最終日に研究成果発表会を行った。

本実習は前任の遊磨・川端氏が担当していたものを今年度から引き継いだもので、私にとって何もかもが初めての体験であった。講師陣には各分野から選りすぐりの若手研究者を揃え、ほぼマンツーマンに近い体制で指導できたので、受講生にとっては大変恵まれた教育環境であったように思われる。今年度は、講師の永田氏が蛍光顕微鏡を導入したこともあり、これまでマクロ中心だった実習内容に細菌レベルのミクロな視点を取り入れることができたのも大きな収穫であった。この実習の特色は、受講生が自主的に研究課題を立案するというスタイルにあり、その伝統は旧大津臨湖実験所時代に開講して以来もう何十年と続いている。毎年、同じ場所で実習を行い続けて、新しいネタなどあるのだろうかというのが開講前の率直な疑問だった。しかし、ふたを開けてみれば、そんなことは杞憂に過ぎなかった。受講生の大半は学部の学生で、陸水生態学はもちろん研究活動自体あまり経験したことのないナイーブな集団である。それが、逆に、よかったのだろう。陸水学に対する凝り固まった観念を持つ私たち講師陣よりはるかに柔軟な発想で奇抜な研究を企画していた。時には、私たちがハッとさせられる興味深いアイデアも提案され、自由研究の枠にとどめておくのがもったいないものもあった。教える立場にありながら、色々と吸収すべきものが多い有意義な実習だった。

私が子供の頃は、よく川辺で魚捕りや生き物の観察に興じたものだ。おそらく、最近の学生でそのような体験をしたものはごく僅かしかいないだろう。親水公園のような人工的自然ではなく、本来の自然を体感できる場所というのは全国から次第に姿を消しつつある。幸い、実習を行った木曽川水系の黒川には、まだ数多くの自然が残されている。受講生たちが水中メガネで川の中を覗き込む姿は、図体こそ大きいが無邪気な子供そのものであった。残念ながら、今年は、昨夏の水害復旧の名の下に重機が川底を掘り起こしていた。川は濁り、藻類現存量は低下し、水生昆虫や魚の数も例年より少なかったようだ。この実習を通して、河川生態系の尊さを実感し、その仕組みを科学的に解明し、将来世代に引き継いでくれる学生が1人でも多く現れることを実習担当者として切に願っている。

今回、事故などのトラブルなく実習を無事終了できたのも、講師の方たちとお手伝いで参加してくれた小板橋・小林氏、そして、研究所を管理されている山田さんのご助力・ご協力のおかげであることを最後に申し添える。

 

黒川にて水生昆虫を採集

実験室にて藻類クロロフィル量を測定

 

本実習の受講生の研究課題とレポートを以下に掲載する。

 

「水生昆虫の食性と消化管内のバクテリア数との関係」

狩野 文浩京都大・理・3年)

とりあえず、水生昆虫の消化管内のバクテリアを見てみようということで、研究を始めました。最終的なタイトルは「水生昆虫の食性と消化管内のバクテリア数との関係」。わかったことは2つ。まず、水生昆虫の消化管内には川の水よりもはるかに多くのバクテリアがいること。また、主に肉食をする昆虫、ヘビトンボやクラカケカワゲラは、主に草食をする昆虫ヒラタカゲロウや、ろ過食者のトビケラよりも、消化管内に多くのバクテリアを持っていることがわかりました。水生昆虫の消化管内のバクテリア数はどのような要因によって左右されるのか、それを予想するにはいたりませんでした。そもそもわからないのは、消化管外のバクテリアがそのまま消化管内に反映されているのか、あるいは消化管内でバクテリアが増えるのか、もっといえば消化管内でバクテリアを飼っているのか、ということ。まず、消化管外のバクテリアがそのまま消化管内に反映されていると仮定して、川のさまざまな環境、消化管外の環境−落ち葉の溜まり場、藻の付着した石の表面、餌となる水生昆虫自体に含まれているバクテリアなど−をもっと調べてみれば検討がつくかもしれません。消化管内のバクテリアを見るのには、蛍光顕微鏡を使いました。今年初めて研究所にもち込まれたとのことだったので、野次馬根性も手伝ってとにかく使ってみたくなったのです。消化管は面白いことに水生昆虫の首根っこを引き抜くと、するすると取り出せます。それを絞ると、きれいに内容物が採集できるのです。

実習はまず十分に楽しませていただきました。温泉、盆踊りに、蕎麦屋、岩魚の手づかみなどのオプションはもちろん、研究もよい環境の中で楽しむことができました。指導をしてもらった先生方も十分な数ですし、丁寧に教えていただきました。料理もおいしく、実習で少し太った気がします。建物は小さいのは仕方ないとして、快適でした。トイレがきれいなのがすばらしい。実習のフィールドは、もう少し広げてほしい。中心となるサイトを2箇所ぐらいにできないものでしょうか?

最後になりましたが、実習を支えていただいた奥田さん、バクテリア研究で終始ご指導くださった小林さん、永田さん、水生昆虫についてご指導くださった宮坂さん、玄海さん、野崎さん、神松さん、まとめにアドバイスを下さった陀安さん、おいしい料理を作っていただいた研究所手伝いの方、そして実習の仲間たちにお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。

 

「ブユが昼間どのようなことをしているか ―行動観察―」

                  辻 かおる京都大・理・3年)

 黒川にて、生息しているブユの幼虫の行動観察を行った。今回の観察から、観察地点に生息するブユの幼虫はユスリカの幼虫、コカゲロウの幼虫などと共存しており、ブユの幼虫も含め共存しているものと接触した際、接触相手により反応を変えることが分かった。また、簡単な実験からこの反応変化は接触位置、接触されたときの衝撃の強さにより引き起こされているであろうことが示唆された。また、異なる流速下ではブユの行動も異なるであろうことも示唆された。

具体的には以下のような結果が得られた。接触されたときの反応は、ブユ、コカゲロウが相手なら流れを利用しての逃避行動は示さないが、ユスリカが相手だと流れを利用しての逃避行動を示すというものであった。今回の観察からはユスリカがブユの捕食者である直接的な証拠は得られなかったが、捕食者である可能性は大きいと考えられる。またユスリカとの接触に際し、流速の速いところでは、逃避行動をとる際、流れを利用した逃避行動をとる割合が減少し、他の逃避行動を取る割合が増加した。この行動変化は、逃避行動をとるに当たり、流れのゆるいところでは元の生息地よりわずかに離れたところまで流速を利用して移動するのがエネルギー効率から有利である一方、急流であれば、流れを利用すると、生息域から完全に流れ去り、再び定着できなくなる、長時間流されれば、魚などの捕食者よる捕食圧が大きくなるというコストが生じるため、行動に変化が生じるのではないかと考えられる。

今回の観察からは上記のような結果などが得られたが、一地点の観察結果であり、データー数が少ないものもあるため、さらに観察する必要性や、他の河川などでも観察する必要性が感じられた。また、流速による行動の変化を観察するに当たり、流速が流速計では測れないため、正確な流速を測定するためにも高速度ビデオなどで撮影することも有用ではないかと思われた。

今回の実習にあたり様々なご指導をした下さった先生方、色々とお世話になった実習生の方々、その他大勢の方々に感謝しております。思い出に残る楽しい実習になりました。本当にありがとうございました。

 

「陸生・水生タデの形態と機能」

戸瀬浩仁京都大・理・3年)

1.研究内容の簡単な紹介

 はじめに、調査対象とした長野県木曽福島町黒川において、タデ科イヌタデ属sp.(Polygonaceae Persicaria sp.)が優性種であった(以下「タデ」と略す)。さらにこの種は陸上に根を張る(以下陸タデという)もの、及び水中に根を張るもの(以下水タデ)が存在する。この同種のタデが、本来陸上に棲息するはずが、水中にもその住処を移したのは必然、つまり、水中には陸上と比較して何かメリットがある、という理由、あるいは、単なる偶然かに興味を持ち、形態的、生理的双方の観点から検証した。

 それによると、形態的な観察では、水タデにのみ気根が存在し、節が空洞になっていた。このため、茎部分が屈曲した構造をとっている。これより、呼吸との関係が示唆される。次に、水タデ周辺の石の付着藻類のクロロフィル密度を測定した。これによると、水中タデの生息していない場所の石と比較して、クロロフィル密度が小さいことがわかった。これより、水タデ周辺の環境は悪い可能性がある。さらに、根における呼吸量を測定すると、根の単位乾燥重量、単位呼吸時間当たりの呼吸量は、水タデのほうが多かった。これは、水タデのほうが陸タデよりも呼吸効率がよいことを示している。最後に、単位面積当たりのクロロフィル密度を計算すると、陸・水タデのそれは大差ないことがわかった。

 これらのことから、環境が比較的悪い水中でも、水タデは環境に適応すべく機能や形態を変化したことが考えられる。これは、植物細胞が可塑性に富むことに深く関係していると考えられる。水タデが水中に住処を移したのは偶然ではない可能性はあるだろう。

 これが研究の全容であるが、できるなら光合成や栄養塩吸収などの観点で、相違点を調べ、また、水タデ・陸タデの遺伝解析を行い、陸タデと水タデの形態・機能差をもたらす原因遺伝子があるか調べ、もしあればその遺伝子のコードしたタンパク質の機能解析を行う、などの遺伝学的解析もやってみたいと思う。

2.実習の感想

初めてここに来たとき、「すごいところに来た」という印象がありました。うれしさ反面、不安半面。しかし、実習を重ねるにつれ、先生方、そして、実習生同士の交流もあり、とても楽しく時間が過ぎていきました。研究発表についても、皆さんが適切な指摘をしてくださり、感謝しています。その後の飲み会は、某実習生と酔っ払って道を歩きながら、お互いのことについて語りました。その後は、実習生みんなで深夜まで語っていました。ここで学んだことは、きっとどこかで役に立つと思います。非常に個性的な先生方、そして、実習仲間と出会えたことは、大学生活の大切な思い出になると思います。最後に、私の研究に尽力してくださった、のざやんこと野崎先生に心から感謝しています。別れ際に「いつか共同研究しよう」と言って下さったこと、本当にうれしく思いました。皆さん、ありがとうございました!忘れません!いつかまた、この場所に来たいと思います。

 

「黒川仔稚魚について」

       石川 陽子京都大・農・3年)

私が今回この実習で行ったのは、実習地黒川に住む、5o程度で胸鰭などが未発達の仔魚から、2.5p程度の稚魚まで(おそらく全てアブラハヤ)の行動や能力についての実験です。具体的には、現場の流速の異なるいくつかの場所に設置したチャンバー内に魚を閉じ込めて彼らがどのくらいの流速でどのくらいの時間泳いでいられるのかを見る実験と直径5p水深40cmの水槽で魚を飼育して一日の鉛直移動の様子を観察する実験を行いました。

実験をしながら1番思ったのは、たった4日ほどの時間で行動実験をしようとしたのは無謀でしかなかった、ということでした。2,3回の実験で傾向を見ようとするのはかなり不確実でしたし、魚の遊泳能力は予想以上に高く、実験できる時間(実験地の上流で工事が行われていたので午後からは水が濁るため遊泳の実験ができなくなりました)の間には流れについていけなくなる個体が出なかったためにちゃんとしたデータが出ませんでした。また実験途中で出現した新たな疑問を解決する時間もありませんでした。しかし、無謀な実験の中でも、流水に住む魚の場合、胸鰭のほとんどない仔魚(アブラハヤ)でもかなりの流速に耐えて泳ぐことができる(位置を保てる)ということがわかって、私はずいぶん嬉しかったです。

この実習は参加できる人数が少なかったため参加者の仲は親密だった様な気がします。また学部も興味も異なる他の参加者の研究の様子を見られたのは有難かったです。

 

「イワナ Salvelinus pluvius から見た河川環境」

前田 玄東京海洋大・水産・4年)

<研究内容>

 イワナは、北海道、本州、四国の一部の河川源流域から上流域に生息しており、口に入るものは何でも食べると言われるほど、貪欲な食性を示す。イワナの胃内容物を分析することで、その河川周辺に出現する生物相がわかるのではないかと考えた。また、採集したイワナの肝臓重量比(HSI)、コンディションファクター(K)、胃内容物から調査地がイワナの生息地として適しているかを調べた。木曽川水系の黒川、アカシオ沢、児野沢で計18個体のイワナを採集し、肝臓重量比(HSI)、コンディションファクター(K)を求め、胃内容物を分析した。黒川ではカゲロウ目(成虫)を、アカシオ沢では鱗翅目(幼虫)を、児野沢では膜翅目を最も多く捕食していた。採集したイワナは陸上昆虫を多く捕食しており、それらはあまり消化されていなかったことから、イワナの胃内容物を分析することである程度その河川周辺の昆虫相を把握することができると考えられる。より正確に昆虫相を把握するには、ストマティックポンプを使用して同じ個体から何回も胃内容物を取り出し分析しなければならない。各河川で採集したイワナの肝臓重量比(HSI) 、コンディションファクター(K)の平均を求めたところ、肝臓重量比(HSI)は児野沢で採集したイワナが、コンディションファクター(K)はアカシオ沢で採集したイワナが最も高い値を示した。そのため、イワナが生息するにはどの河川がもっとも適しているかはよくわからなかった。肝臓重量比(HSI)とコンディションファクター(K)とでは、イワナの栄養状態を表すにはどちらが適している値であるかを検証する必要がある。また、栄養状態だけでは、その河川がイワナの生息に適しているかはわからず、競合種との関係、水量や水温の季節変化、繁殖場の有無などさらに色々な条件を調べなければならない。

<感想>

 私がこの実習でもっとも驚いたことは、講師陣の数の多さ、質の高さと、講師と受講生の距離の近さである。東京海洋大学の実習では、講師陣の多くは学部4年生や修士課程のTAで、教授達、研究者は2〜3名程である。木曽実習のように一線で活躍されている研究者の先生方が多数参加する実習というものはまずない。そのため、実習参加者と講師陣の知識や経験にそれほど差が無く、正直、自分のためにならない実習も多い。木曽実習に参加されている講師の方々は、さすがと言っては失礼だが、深い知識をもって適切なアドバイスをしてくださり、非常に勉強になった。また、実習では、講師陣と実習生の間には距離が生じるものだが、この実習では、講師の先生方から積極的に話しかけてくださりそのような距離を感じることも無かった。この実習に参加したことは、今後の私の人生に大いに役立つ貴重な経験となるだろう。

 

「黒川における水生昆虫の棲み場の違い〜粒径の違いから〜」

大槻 真紀横浜国大・環境情報・修士2年)

 黒川において、予備調査を川の瀬のみで行った結果、平らな石の場所には水生昆虫の種としてカゲロウ目やユスリカ目が優占していたが、くぼみを多くもつ石には平らな石の場所と比べ、水生昆虫相の多様性が高かった。また、瀬の真下にある石には小さな水生昆虫が棲める空間がみられるなど、ハビタットについて僅かながら知りえることが出来た。また、水生昆虫の振る舞いとしては、流れを受けやすい不安定な場所にもみられ、活発な動きを示すものもいれば、緩慢な動きを示すものもみられた。こうした観察から淵よりも瀬のほうが水生昆虫は棲みやすく、加えてくぼみや亀裂の多いことなどが棲みやすい条件として考えられるのではないかと思われた。そこで、仮説@「川石の面数が多く複雑な程、水生昆虫は多く存在する」、仮説A「川石のくぼみの数が多いほど水生昆虫は多く存在する」を検証するために、同じ地点でそれらの川石のサンプリングをランダムに10回行い、水生昆虫の在不在回数を行った。加えて、仮説B「粒径の違いによって水生昆虫相に違いがあるのか」を確認するために石の大小で水生昆虫相の比較を行った。しかし、今回の観察結果からは、そのような結果を得ることは出来なかった。考えられる理由として、仮説@・Aについては、地点数が少なかったことが一つ考えられる。仮説Bは上流から下流の粒径の大きさの基準を18pと定めたため、それぞれの場所の違いが明らかにならなかったことが考えられる。

最後に仮説C「流速と水生昆虫相との関連はあるか」を調べるために、上流から中流、下流に着目して水生昆虫を見た結果、カゲロウ目は上流で最も多くみられ下流に近づくと徐々に減少した。一方、ユスリカ目は上流で最も少なく、下流に近づくほど増加した。またそれぞれの地点からの平均流速と水生昆虫個体数の相関を見た結果、流速が緩やかなほど水生昆虫個体数は増加する傾向がみられた。さらに、瀬と淵でみたとき、瀬にはカワゲラ目が多くみられ、淵にはユスリカ目、カゲロウ目が多くみられた。そして流水と止水でみたとき、流水にはトビケラ目、カゲロウ目、カワゲラ目が多くみられたが、止水にはあまりみられなかった。流水、止水いずれにもみられた種としてユスリカ目があった。以上の結果から、流速と昆虫個体数との相関はみられたものの、川石の利用のしかたの違いを明らかにすることは出来なかった。

この実習で習いたかったことは、河川においてどのような研究がなされており、どのように水生昆虫を同定するのかといったことにあったが、それ以上に色々なことを教わることが出来た。例えば自分の対象になった水生昆虫が魚の餌となり、その魚を自分達が食べるということで食物網とはどんなことかを実感することも出来た。そしてデータの扱い方をもっと丁寧にみていくことの大事さを教わった。何よりもこの実習に来て感じたことは、やはり研究は自分も自分の周りもいかに楽しみながら取組んでいくことが大切なのかを感じさせられた。

 

「黒川におけるアブラハヤPhoxinus lagowski steindachneriの稚魚の食性に関する研究」

                     庄下 将志明治大・農・3年)

私は、今回の実習で、広域に生息し一般に良く知られているアブラハヤの食性・それから分かることについての研究を行った。成魚については過去に多く研究が行われているので、本研究では稚魚に限定して行った。

具体的内容は、まず本種の稚魚を流れ込みがあって緩やかな流速があるポイントと水流が全くないポイントの環境が異なる二地点から採集を行い、それぞれの地点の稚魚の胃内容物を別々に調べ、水生昆虫などを中心に目名まで(可能ならば種名まで)同定し、その個体数を計測した。すると胃内容物は二地点間で異なったため、その原因をしらべるために空腹状態にした個体にさまざまな餌を与えることによる飼育実験を行った。結果、目の前に来た餌には何にでも興味を示し、つつく行動をすることがわかった。そして硬いものや口のサイズに合わないものに関しては、吐き出したり、つつく行動を繰り返すことが明らかになった。また、つつく対象には、昆虫の生体だけではなく、ニオイや振動がないものもなり得ることが細い針を用いた実験でわかった。そこでもう一度採集地点に出向き、稚魚の摂餌行動を観察することにした。緩やかな流速のある地点では、水流によって流れてくる昆虫類に依存して生きていることが、水流の全くない地点では藻類の生えている底の土中や岩の表面をつつき、そこにいるユスリカなどの水生昆虫を摂食していることが確認できた。それにより、周囲の環境が違うと摂餌行動が異なっていることが証明された。これは、胃内容物を調べた最初の方法の結果にも反映されていた。

今回の研究では、実習が一週間と短く、対象種の個体サイズが小さかったため胃内容物を調べるのに時間がかかったことが難点であった。また、水流がない地点ではなぜ土中をつつくのか、疑問が残った。

<感想>

幼少時代から川によく行って魚を見てきたが、それらの性質をじっと観察したり環境条件をみたり実験の結果をデータにとったことがなかったので、今回の実習での経験は今までと違った観点から魚を見ることができてよかったです。また、今回の調査地のような上流に出向くことはめったになかったので、上流に生息する魚類・両生類・昆虫類を見ることが新鮮でした。特に、岩の下に多様な生き物がいることに驚かされた。そして先生方に的確なアドバイスを頂き、豊富な知識を楽しく得ることができたので、とても有意義な時間を過ごせたと思いました。

 

今回の参加メンバー