研究内容紹介:

タモロコ属魚類の栄養多型における表現型可塑性の実験的検証

西松聖乃

 

 適応戦略のひとつとして、食べるものに合わせて体を変え、動物は進化してきました。また、同じ種でも食性によって形態を変えることができる動物もいます。この現象を栄養多型と呼びます。私が研究の対象にしている魚類でも一般的に知られている現象です。

 この栄養多型が起こるメカニズムとして、表現型可塑性と遺伝的な要因の2つが考えられています。表現型可塑性とは、同じ遺伝型の個体が、発現する表現型を環境条件によって変化させることです。一方、形態の違いが遺伝子の違いに基づいている場合もあります。

 

 私が実験に用いている魚は、淡水魚のタモロコと、そのタモロコから分化した琵琶湖固有種のホンモロコです。

 タモロコでは、地域によって形態的特徴に違いがあること、つまり種内多型の存在が知られていました(細谷1987)。福井県の三方湖では、ホンモロコに近い特徴を持つタモロコが見つかっています。これが、食性の違いによるもの(栄養多型)であり、それは表現型可塑性によって起こっているのではないかと考え、研究に取り組んでいます。

 タモロコは本来ベントス食ですが、それがプランクトンの豊富な琵琶湖に入り、プランクトン食に適した形態をもったホンモロコに分化したと考えられています。タモロコは、プランクトンが豊富な場所(湖やため池)に行けば、本来の食性であるベントスを食べず、プラクトン食に変わるのかもしれません。

 

ホンモロコ

Gnathopogon elongatus caerulescens

タモロコ

Gnathopogon elongatus elongates

琵琶湖固有種

中部以西に分布

琵琶湖沖合に生息

琵琶湖沿岸、河川、沼地に生息

プランクトン食

雑食性(ベントス食)

口が上向き

一般的に口が下向き

栄養多型をもつ

表:タモロコとホンモロコの特徴比較

 

 タモロコ、ホンモロコで表現型可塑性があるのか、また表現型可塑性にどのような適応的意義があるのかを飼育実験で調べたいと思っています。具体的には、琵琶湖のタモロコとホンモロコ、三方湖のタモロコの3集団に違う餌を与えて飼育して形態変化があるのかを調べます。

 タモロコの形態変化が、生物群集の動態にどのような変化を及ぼすのかにも興味があります。