岸 茂樹(京都大学生態学研究センター・’07.10〜’09.3在籍

 
 
 

略歴


1996.3  愛知県立一宮高校卒業

1996.4  東京大学理科2類入学

2000.3  東京大学農学部森林科学専修卒業

2000.4  京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻修士課程入学

2002.3  同卒業

2002.4  同博士後期課程入学

2007.9  同修了(農学博士 Ph.D)


主な研究テーマ:行動生態学・進化生物学


これまでは糞を食べるコガネムシ、フン虫(コガネムシ科Scarabaeidae;ダイコクコガネ亜科)を材料に親から子への投資行動を研究してきました。親による子の世話の研究はとても興味深く、やめるつもりはありませんが、現在は一時休止中です。現在は古典的材料であるアズキゾウムシCallosobruchus chinensisとヨツモンマメゾウム シC. maculatusを用いて、種間競争を研究しています。特に、種間求愛行動 (配偶干渉)が種間競争の結末を決める大きな要因になっているという仮説をもとに実験中です。


業績


Kishi S. and Nishida T. (2006) Adjustment of parental investment in the dung beetle Onthophagus atripennis (Col., Scarabaeidae). Ethology 112:1239-1245.

摘要:

 親による子への投資で最も基本的な問題は子の数と大きさのトレードオフである。理論的モデルによれば、親の資源量に関係なく子一匹あたりの最適投資量が存在する。ここでもし親が質の異なる多種の資源を用いる場合、最適な投資を行うためには親は資源の質を評価し、資源の投資量を変化させる必要がある。すなわち質の良い資源では投資量を少なくし、質の悪い資源では投資量を多くするはずである。この予測に対する実証研究は存在するけれども、親が資源の種別に応 じて投資量を調節しているのか、あるいは質に応じて調節しているのか、わかっていなかった。 この問題について食糞性コガネムシ類であるコブマルエンマコガネ Onthophagus atripennisを用いて調べた。本種の親は子のエサのすべてを糞球として供給し、糞球は1頭につき1個与えられる。親の資源として質の悪いウシ糞、質の良いサル糞、そして2種の糞を混ぜた混成糞のうち、どれかひとつをペアに与え糞球を造成させた。その結果、糞球サイズはサル糞が最も小さく、混成糞、ウシ糞の順に有意に大きくなった。しかしそれらの糞球から脱出した子の体サイズはサル糞と混成糞では有意な差はみられなかったが、ウシ糞 でのみ有意に小さかった。これらのことからコブマルの親は子のためのエサの質を評価し投資する資源量を変化させることによって最適な投資を達成できるが資源の質が極端に悪くなると投資量が子の適応度に反映されなくなると考えられる。


Kishi S. and Nishida T. (2008) Optimal investment in sons and daughters when parents do not know the sex of their offspring. Behavioral Ecology and Sociobiology 62(4): 607-615.

摘要:

 オスが大きい種における体サイズの性的二型はオス間闘争の強度に比例して増大すると考えられており、実際にオス間闘争が激しい種ではオスにツノなどの闘争用の形質が発達している。しかしエンマコガネ属Onthophagusを始めとする多くの食糞性コガネムシ類では オスに多様なツノが発達しているにもかかわらず、体サイズの性的二型がほとんどみられない。本研究では親による子への投資分配様式に注目し実験とグラ フィックモデルからこの矛盾を解明した。コブマルエンマコガネO. atripennisの親は子のエサとなる糞球1個に対し1個の卵を産む。まず糞球サイズを人為的に変えてそこから出現する羽化成虫の体サイズを調べた。娘の期待適応度は体サイズで代用し、息子の期待適応度はさらに体サイズに依存した配偶成功を組み込んで調整し、娘・息子それぞれの適応度曲線を求めた。その結果、親の投資量は息子に対して最適だが娘に対しては過剰であることがわか った。

 本種の一次性比は1:1であり子の生み分けはできないから親からみた適応度曲線は息子と娘の適応度曲線の算術平均になる。そのときの最適投資量は理論的にはよりコストの大きな息子に対する最適投資量に等しく、実際の糞球サイズに合致した。以上の結果 は、親の投資が子の適応度に対して決定的でかつ両性への投資の調整ができない種では、(1)親はコストの大きな性に対する最適投資を両性に対して行 い、さらに(2)オス間闘争の強度に関係なくサイズの性的二型が進化しない ことを示している。この研究では、親が投資終了までに子の性を判別できないとき、息子と娘の最適投資量の平均値ではなく、コストの大きな方の性(オス間闘争があるときは息子)の最適投資量を息子にも娘にも供給することが進化的に安定な投資戦略であることを証明した。同時に、この研究は最適投資量の初めての検証例である。


Kishi S. and Nishida T. Adjustment of parental investment in the dung beetle Onthophagus atripennis (Col., Scarabaeidae).  Journal of Ethology 112: 1239-1245.

 

コブマルエン マコガネOnthophagus atripennisのオス

アズキゾウムシ

Callosobruchus chinensisのオス