福井県・水月湖における好気・嫌気微生物ループの特性解明

この研究は、平成20年度から21年度の科研費・萌芽研究「身近な環境における原始地球の食物網動態の解明(代表:中野伸一)に始まり、現在は(財)福井県大学等学術振興基金助成事業による「原始地球の嫌気性微生物ループを水月湖から探る」(代表:近藤竜二)、および科研費・基盤C「有機汚濁水域における硫化水素の生成と消滅に関わる分子微生物生態学的研究」
(代表:近藤竜二)により進められています。

福井県立大学では、大学院生の岡村君を中心に、好気・嫌気における細菌の現存量と組成(サイズなど)、鞭毛虫の現存量、鞭毛虫による細菌摂食速度の測定を行っています。

京都大学では、これは愛媛大学時代(すでにマスターを修了した、藤田健吾君の研究です)からの継続で、繊毛虫の現存量と組成の鉛直分布の季節動態、特に好気嫌気境界層付近に多く分布する大型繊毛虫Spirostomum属の生態について研究しています。

Spirostomum属は、大きさが300から500ミクロンという大型の繊毛虫です(以下、写真。福井県立大学の高尾祥丈先生撮影)。こんなに大きいのに、食べるものは細菌らしいです。まさに、海のクジラがオキアミを食べるようなものです。嫌気環境で見つかりますが、全くの嫌気ではなく、好気と嫌気の境界環境に居るようです。室内実験では、完全好気でも元気に増殖するようです。水月湖では、嫌気層では、ほぼ全く検出されません。が、この繊毛虫の生態は、実は詳しいことは、まだ何もわかっていません。というのは、この繊毛虫はホルマリンやグルタールアルデヒド等の固定剤で処理すると、数秒のうちに細胞が破裂し、原形を全く留めなくなります。しかし、過去の研究では、ほとんど全ての場合、繊毛虫のサンプルには固定剤を入れており、こうなるとSpirostomum属の細胞は検出されません。たしかに、固定剤を用いた研究では、この繊毛虫は見つからないようです。でも、考えてみてください。大きさ300ミクロンを越える動物が食べる細菌の量は、相当なものでしょう。しかも、それが水月湖の好気嫌気境界層付近で、ほぼ年間を通じて優占繊毛虫の一つなのです(場合によっては、Spirostomum属だらけの時もある)。Spirostomum属が回す物質量たるや、おそらく相当なものと思われますが、これまで世界中の誰もそれを評価できていません。

私は、Spirostomum属の生態学は、嫌気微生物ループの特性を解明するために、大変重要なのではないか、と考えています。というのは、Spirostomum属は嫌気環境にもときどき飛び込んでいるであろうからです。好気嫌気境界層に生息する繊毛虫が、嫌気環境にダイブして、また戻るという論文も、過去には報告されています。私は、Spirostomum属の生態解明に、夢を持っています。