研究内容:
当研究室の教員である中野は、細菌、シアノバクテリア、原生生物の間の食物網について、主に研究を行ってきました。が、現在の私の研究室では、私がこれまでメインで行ってきた研究をやっている学生さんは、実は1人もおられません。。。。

現在、私の研究室で行われている研究は、以下の通り:

蒋梦g:室内実験系にて、C:N:Pの異なる環境下での藻類やシアノバクテリアの細胞のC:N:Pの変化や安定性を調べています。

Soumya Deb:琵琶湖の珪藻類の有性生殖に伴う細胞サイズの変化とその生態学的意義を調べています。

李若氷:琵琶湖沿岸域に生息するベントスと植物プランクトンとの食物連鎖を、安定同位体解析を用いて調べています。

吉田潤哉:琵琶湖に生息する原生生物・太陽虫の生態を研究しています。太陽虫の生態は、世界的にほとんど解明されていないのです。

このように、私の研究室では、学生さんの興味を尊重した活動をしています。が、私は私で以下の内容に興味があるので、以下に関連する研究は、京大の他部局の研究者や、他大学・滋賀県の研究者らと共に進めています。

微生物は、陸上や水中の有機物の生産と分解の大部分を行っている、地球上の物質循環の基礎を支えている生き物です。すなわち、微生物の生態を詳しく知ることは、人間の生存や人間と環境の共生につながります。微生物は、種類が多様であり、その生態もあまりに多様なため、微生物の生態学は研究テーマの宝庫です。我々の研究グループでは、湖沼、海洋および河川における微生物の食物連鎖(微生物ループ→その説明はここ)の生態学、およびこれに関連する微生物の生態学的研究を進めています。めまぐるしく変化する微生物の物質循環系の構造と機能を、国内外の水域において解明しています。

また、我々の研究成果は、遅かれ早かれ、社会の発展に貢献する、あるいは人類の幸福に貢献することが求められています。私は、これは大変重要なことであると思います。私の研究室では、富栄養化した世界中の湖沼でよく見られるシアノバクテリア(ラン藻)の大増殖によるアオコの生態学的研究も進められています。特にユニークなのは、アオコなどのシアノバクテリアを食べる原生生物の研究であり、このような研究は世界でも大変少ないのが現状です。もちろん、アオコの生態に関わるその他の研究も進めています。

さらに、近年の先進国における社会的に重要な湖沼では、窒素リンなどの水質項目についての改善は進んだにもかかわらず、COD(化学的酸素要求量)の上昇が見られ、解決の難しい問題として浮上しています。我々の研究室では、微生物生態学的なアプローチにより、この問題に関連した研究にも取り組んでいます。具体的には、夏季の琵琶湖深層で優占するクロロフレクサス門の細菌CL500-11を中心とした細菌の生態学、および
これら細菌と微生物ループを駆動しているであろうキネトプラスチド鞭毛虫の生態学などですが、湖沼の有機物負荷問題に対して微生物生態学的に取り組むアプローチは、国内外においても独特のものであろうと思います。

研究室の責任者である中野は、元来は微生物の食う―食われる関係とそれに伴う物質循環の研究を主に行ってきました。しかし、近年の分子生物学的手法の微生物生態学への導入に鑑み、平成21年度からこれらの手法を大きく取り込んだ研究を展開し始めました。これは、主に以下のアオコの研究に因るのですが、アオコ以外の微生物についても研究手法の大幅な刷新を図っています。

が、これだけでは日本の微生物の生態学を維持・発展させることはできません。微生物生態学では、微生物の食物連鎖研究は大変重要であり、海外ではまだまだ活発に研究が進められています。この研究を日本で発展させ、国際的レベルに伍して競うためには、当研究室がその火を消すわけには行きません。また、自然界では、微生物は微生物のみで生きているのではなく、他の生物と相互作用しながら生きています。多様な生物間の関わりの中で微生物の生態を解明する作業を効率的に進めることができる点で、生態学研究センターは大変ユニークな特徴を有しており、このことは海外からも高く評価されています。

当研究室では、最先端の分子生物学的手法を取り入れつつも、古典的とも言われるオーソドックスな微生物学的手法も多用し、これらを生態学研究センターの特性である多様な生態学者との議論の中でよりハイレベルな生態学的研究に昇華させる研究を目指しています。湖沼や河川などの陸水生態系におけるこのような微生物生態学の研究室は、日本ではほとんど存在しないので、陸水微生物生態学の日本における発展のためにも、我々は頑張らなければなりません。