内湖一斉調査2006-2007
調査の目的
在来水生生物の多くは、生活史の異なる段階で異なる生息地を利用し、それら生息地が隣接してつながる景観(生息地ネットワーク)を移動・分散することによって個体群を維持しています。しかし、近年の開発や圃場整備にともない、従来の水生生物の移動・分散経路の様相は激変しました。生息地ネットワークの分断化によって生活史を全うできない水生生物個体群の絶滅リスクの増加が懸念されています。水生生物の多様性保全施策を講ずる際、どのような生息地ネットワーク構造が個々の種の個体群存続可能性を高める上で最も効果的であるか検討することは喫緊の課題となっています。
2800種余りの陸生・水生生物、および、61種の固有種が生息する世界屈指の生物多様性を誇る琵琶湖には、かつて多数の内湖が存在していました。内湖とは、ワンドなどの一次水域が琵琶湖から隔離されることによって誕生した衛星湖です。水生植物帯が発達し、生産性の高い内湖は、在来生物の餌場や繁殖場として利用され、生物多様性ホットスポットを形成しています。しかし、現在、これらの内湖の多くが人間活動の影響によって在来生物の個体数を減少させ、何らかの保全措置を講ずる必要性に迫られています。そのような人為撹乱要因として水系ネットワークの物理的改変と侵略的外来種の生息地拡大が取沙汰されていますが、それらの影響を定量的に評価する調査はこれまでほとんど行われてきませんでした。そこで、内湖における在来生物および外来生物の生息地間移動実態を定量的に把握する手法を確立すること、ならびに、各生物分類群のメタ群集構造におよぼす琵琶湖-内湖のネットワーク構造の影響を評価することを目的とした野外調査を実施しました。
調査従事者
奥田昇・柴田淳也・山口真奈・大石麻美子・由水千景・大川聡・西村洋子・眞壁明子・永田俊
調査協力者
宇野裕美・中島哲郎・綿引和巳 (アイウエオ順)
調査地点
琵琶湖周辺に残存する23内湖(一部の内湖では生息地・生物相調査を省略)。
調査地点リストと位置(powered
by Google Map)
調査期間
2006年6月および2007年5-8月に実施。
調査項目
各内湖において、物理・化学環境観測および生息地評価を行い、魚類・ベントスおよび動物プランクトンの定量・定性採集調査を実施。さらに、各種生物試料は炭素・窒素安定同位体分析に供試。
湖岸調査:流入河川河口部から200m以内(4地点は近隣に流入河川をもたない地点)で魚類・ベントスの定量採集および環境計測・生息地評価を実施。
1)
物理・化学環境計測
携帯型多項目水質測定器(U-20、HORIBA、Kyoto)を用いて、沿岸水の水温(Water temperature)(˚C)、pH、電気伝導動(Electric
conductivity)(mS/m)、溶存酸素濃度(Dissolved oxygen)(O2mg/L)を計測。携帯型酸化還元電位測定器(RM-20P, DKK・TOA CORP.、Tokyo)を用いて、湖底泥表層内(bottom)および沿岸表層水(surface)の酸化還元電位(ORP: Oxidation-reduction potential)(mV)を計測。携帯型濁度計(TN-100、Oakton Instruments、IL、USA)を用いて150μmメッシュネット濾水の濁度(Turbidity)(NTU)を計測。試水は実験室に持ち帰り、総窒素濃度(TN)・総リン量(TP)および各種栄養塩類濃度を計測。
2)生息地評価
各内湖のヨシ密度、ヨシ帯傾斜、沈水植物(ヒシ)の有無、GISに基づくヨシ面積を計測。さらに、内湖と本湖の連絡水路の物理構造特性として、流路長(m)、水路水深(m)・幅(m)、流速、物理障壁(樋門、堰板など)の有無、植生および植生被度を計測。内湖の土地利用様式は、GISに基づいて数値化。
3)食物網基盤餌源
沿岸礫もしくは人工付着基盤上の付着藻類、開水面にて150μmメッシュネットで濾した濾水中の懸濁態有機物(POM)、抽水植物帯のヨシ類を採集し、炭素・窒素安定同位体分析に供試。付着藻類とPOMサンプルはガラス繊維濾紙(GF/F、Whattman、UK)で濾過し、一部はChla濃度分析に供試。安定同位体分析試料は1N塩酸処理し、蒸留水で洗浄後、60℃で一昼夜乾燥。
4)魚類・ベントス・動物プランクトン
定量調査の詳細はここを参照。炭素・窒素安定同位体分析に供試する代表的な生物分類群は投網、タモ網、プランクトンネットなどを用いて定性採集。
物理・化学環境観測データ
2007年6月(公開準備中)
生息地データ
各種GIS(公開準備中)
植生(公開準備中)
連絡水路(公開準備中)
群集組成データ
出現魚類リスト(群集組成データは公開準備中)
ベントス(公開準備中)
動物プランクトンサンプルリスト(群集組成データは公開準備中)
炭素・窒素安定同位体比データ
食物網基盤餌源(公開準備中)
魚類(公開準備中)
ベントス(公開準備中)
動物プランクトン(公開準備中)
公表論文
Shibata, J.,
Z. Karube, M. Oishi, M. Yamaguchi, Y. Goda & N. Okuda (2011) Physical
structure of habitat network differently affects migration patterns of native
and invasive fishes in Lake Biwa and its tributary lagoons: Stable isotope
approach. Population Ecology 53:143-153 PDF for educational use
謝辞
本調査は、環境省・地球環境保全等試験研究費「在来淡水魚保全の為の生息地ネットワーク形成技術に関する研究」(委託研究代表:奥田昇)、日本学術振興会科学研究費補助金(若手B)「琵琶湖をモデルシステムとした沿岸食物網の時空間構造解析」(代表:奥田昇、No. 18770014)、独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「各種安定同位体比に基づく流域生態系の健全性/持続可能性指標の構築」(代表:永田俊)により支援された。
お問合せ先
京都大学生態学研究センター琵琶湖定期観測委員会
〒520-2113 滋賀県大津市平野2丁目509−3
担当: 奥田 昇(nokudaecology.kyoto-u.ac.jp)