京都大学生態学研究センター 大串研究室
メンバー

植物の遺伝子型が生態系プロセスに果たす役割

加賀田 秀樹(グローバルCOE PD)

生物が駆動する生態系プロセスは、主に生産系、消費系、分解系の3つに区分されます。近年、物質生産の基盤である植物の遺伝子型が、それぞれの生態系プロセスに重要な影響を及ぼしていることが明らかになりつつあります。一方、生産、消費、分解の各生態系プロセスは互いに密接な関係をもっており、植物の遺伝子型の効果は、生産−消費−分解のプロセスを経て再び生産系にフィードバックすることが予測できます。このことは多くの研究者が提唱していることですが、実際に植物の遺伝子型に依存した生態系プロセスのフィードバック機構の実験的な検証は始まったばかりです。

私は河川敷に生息するヤナギを材料にして、生態系プロセスにおける植物の遺伝子型の効果を実験的に確かめる研究に取り組んでいます。植物の遺伝子型に依存した生態系プロセスのフィードバック機構は存在するのか? そのフィードバック機構を支配するのは、生産、消費、分解の3つのプロセスのうちどれなのか? という点について解明していきたいと思っています。

(研究キーワード:栄養生態学・生態化学量論・昆虫生態学)



アリーアブラムシ相利共生と局所的な天敵群集との相互作用

片山 昇(日本学術振興会特別研究員 PD)

相利共生とは、お互いの種が相互作用する相手から利益を受ける関係で、あらゆる生態系にみられます。しかし、相利共生の形態は多様で、状況に応じて変化し、時として相利共生は解消されます。相利共生は多様な生物種を生み出してきた大きな要因として考えられているため、相利共生の動態や維持機構を解明することは生態学・進化学の重要な課題となってきました。

同翅目昆虫であるアブラムシの中には、甘露と呼ばれる糖分に富んだ排泄物でアリを誘引し、アブラムシの天敵を排除させるような、アリとの相利共生を持つものがみられます。しかし、ある種の天敵はアリに排除されません。これらのことを考慮すると、アリ−アブラムシの相利共生はそれらを取り巻く天敵の群集構造を変化させ、その結果、相利共生を維持するための利益 / コストも変化すると予想されます。このように、アリーアブラムシの相利共生は、天敵群集の変化を介して、自身の動態へとフィードバックしてくると考えられます。私は、アリ−アブラムシ相利共生を中心に、相利共生を多者が関わる相互作用として捉えて,多者系における相利共生の動態や維持機構について研究しています。

(研究キーワード:相利共生・アブラムシ・アリ・多者系)



外来植物セイタカアワダチソウ上で形成される昆虫群集

安東 義乃(グローバルCOE PD)

ある地域に定着した外来種は、これまで出会ったことのなかった生物と新たな相互関係を形成することになります。そのため、外来種の定着にともなって、しばしばその地域の生態系が大きく変化することがあり、生物多様性の低下などの影響が懸念されています。しかしながら、外来種が侵入地でどのような生物間相互関係を形成しているかを明らかにした研究はほとんどなく、具体的な因果関係は明らかとはなっていません。近年では、植物の上で昆虫群集がどのように形成されていくかを明らかにするためのモデル植物として、外来植物が注目されるようになってきています。

外来植物の上で見られる昆虫群集の特徴は原産地と侵入地で大きく異なっています。たとえば、原産地では、その植物に特化したスペシャリスト植食性昆虫種が多く存在しますが、侵入地ではさまざまな植物を利用するジェネラリスト植食性昆虫種が多く存在する傾向にあります。私は、外来植物であるセイタカアワダチソウの上で形成される生物間相互作用ネットワークを明らかにすることによって、侵入地の日本と原産地の北米において昆虫群集の特徴が異なるメカニズムを解明しようとしています。近年では、植物の遺伝子型が昆虫群集の構造を決定する上で大きな役割を果たしていることが指摘されており、分子遺伝学的アプローチもとりいれながら、研究していこうと考えています。

(研究キーワード:外来生物・相互関係・群集構造)



ヤナギの再成長がその上の節足動物相に与える生態的・進化的影響

内海 俊介(グローバルCOE PD)

食害に応答した植物の誘導反応には、植物の形態や化学成分、成長パタンなどの変化といったさまざまなタイプのものが知られており、これらは陸上植物における普遍的な反応であることが近年明らかにされてきました。興味深いことには、これらの反応が生じることによって時間・空間的に隔てた生物の間に間接的なつながりが形成されます。たとえば、春先に現れる昆虫の食害が植物の質を変えてしまうことによって、秋に現れる昆虫さらには翌年の昆虫の密度や分布、生存、繁殖などに影響を与えます。

私はこれまで、ヤナギとその上の昆虫を材料に、そのような間接的相互作用によって昆虫の個体群動態や群集構造さらには形質進化がどのような影響を受けるかについて研究を行ってきました。ヤナギは日本の河川中下流域の河畔林における代表的落葉広葉樹で、生物要因(e.g. コウモリガ幼虫による穿孔食害)や非生物要因(e.g. 洪水)に対してさまざまな形質の変化(e.g. 栄養状態、枝長、葉の形態)を伴う再生長反応を示します。

現在、植物の誘導反応を介した間接的相互作用の進化生態的意義に着目してさらに研究を展開しています。これは、複雑に関わり合う生物からなる群集における進化の実態を解明する鍵になる可能性があります

(研究キーワード: 動物?植物相互作用・個体群生態学・群集生態学・進化生態学)



外来植物上で生じる生物間相互作用が外来植物に及ぼす影響

三浦 和美(生態学研究センター機関COE PD)

外来植物の侵入先には、その原産地に固有の植食者がいないため、外来植物がしばしば大発生することが指摘されてきた。この予想に基づいて、外来植物の大発生を抑えるために、原産地に固有の植食性昆虫を侵入先に導入する多くの試みがなされてきた。しかし、その多くは失敗したので、導入昆虫の増加や外来植物の減少を抑える生物間相互作用が広く存在すると思われる。これまで、捕食や捕食寄生の直接的な影響が指摘されている。しかし、植物上の昆虫間には、多様な間接相互作用が生じることが明らかになってきたにもかかわらず、植食性昆虫が導入昆虫に及ぼす間接相互作用、そしてそれが外来植物の生存や繁殖に及ぼす影響を検討した例は少ない。

北米原産のブタクサは戦後日本各地に広まり、近年、北米原産のブタクサハムシが日本に侵入し各地に広まった。ブタクサハムシの生存や繁殖に、他の植食性昆虫による間接効果が影響するか、さらにブタクサの生存や繁殖に影響するか、検討している。

過去の研究は

http://jglobal.jst.go.jp/detail.php?JGLOBAL_ID=200901079209593401&t=1&d=1&q=1000312029

を参照して下さい。

(研究キーワード:外来生物・間接相互作用・群集構造)



生物間相互作用ネットワークからみた「捕食ー被食関係」に関する研究

長 泰行 (日本学術振興会特別研究員 PD)

地球上にはさまざまな種類の生き物がいます。よく知られている生き物の関係の一つに食うー食われるの関係(捕食―被食関係)があります。エサとなる被食者は黙って捕食者に食べられるだけではありません。被食者は捕食者に食べられないようにするため行動や形を変えることが知られています。しかし、自然界には被食者と捕食者の2者しかいないわけではなく、捕食が起きる時には周りに様々な生き物がいます。私は、被食者が捕食者の攻撃を回避する際に、周囲の生物の状況(餌資源、競争者、捕食者の存在)を判断した上で捕食回避戦略をどのように変化させるか、という被食者の意思決定のメカニズムについて研究をしています。周囲の状況を判断する手がかりとして、生物が放出する匂い(揮発性物質)に主に注目しています。

(研究キーワード:捕食回避・植食者・捕食ー被食関係・誘導反応・三者系)



        

セイタカアワダチソウと昆虫の相互作用が分解過程に与える影響

鈴木 智之 (M2)

リターの質は植物によって異なり、分解過程に大きく影響します。同じ植物でも昆虫の食害によってリターの量や質が変化することで分解過程が異なるという事例は、多くの植物・植食者で知られています。また近年、植物のクローンによってリターの質や分解過程が異なることが報告されています。一方で、クローンによって生来の形質や食害誘導反応が異なることを示唆する研究もあります。これらの影響、つまりクローンによらない食害の影響とクローンが生来持つ形質の影響、クローンによって異なる食害誘導反応の影響は、分離してその大きさを検討する必要がありますが、そうした研究は不足しています。

私は、地下茎で繁殖するセイタカアワダチソウとその優占植食者アワダチソウグンバイを用いて、この課題に取り組んでいます。現在までの研究により、クローンによって植食者密度が異なること、リター中の防御物質量(総フェノール量)に差があることがわかり、分解初期の分解速度が防御物質濃度と窒素含有率の影響を受けている可能性が示唆されました。

(研究キーワード:ゴール・側枝・間接効果)



        

Aphid colonization initiates above- and belowground linkage

Alessandro O. Silva (M2)

Ecosystem functioning is used to describe a variety of ecological processes, such as productivity and decomposition. The maintenance of such functioning requires aboveground and belowground components. For example, effects of aboveground herbivores on plants can exert important belowground effects, with likely long and short-term aboveground consequences through altered supply rates of plant-available nutrients from the soil and changes in the litter quality. Therefore, we need to incorporate above- and belowground processes to understand ecosystem functions.

Sucking insects such as aphids are likely to affect belowground processes. For example, they often secrete surplus ingested carbohydrates that contain sugars usually extremely labile and easily utilized by belowground microorganisms. In a result, belowground microorganism activity can increase, and available nutrients in soil will decrease due to microbial immobilization. In addition, aphids can affect litter contents (e.g. phenol and nitrogen) directly by sap feeding, and indirectly by changing in association of the plant and belowground symbiotic microbes. These changes will subsequently affect liberation of nutrients in litter.

In my study, I examine aphid effects on decomposition and nitrogen flux in soil using soybean which is associated with rhizobia.

(研究キーワード:植食性アブラムシ、生態系機能、リター分解、窒素流入)



植物の形質の変化を介したゴール形成者へのフィードバック

古川 浩司 (M1)

ヤナギマルタマバエ(双翅目)がジャヤナギの当年枝に虫こぶという構造を形成すると、側枝の伸長が促進されます。そしてその側枝から新たに生じる葉は高い質を持つため、虫こぶが形成された当年枝ではヤナギルリハムシ(鞘翅目)やムナキルリハムシ(鞘翅目)、そしてヤナギアブラムシ(半翅目)といった植食性昆虫が増加することが明らかになっています(Nakamuraら 2003)。これはヤナギマルタマバエがジャヤナギの形質を変えることにより間接的に正の効果をヤナギルリハムシなどに与えていることを意味します。しかしヤナギルリハムシなども植食によりジャヤナギの形質を変える素質を持っているため、虫こぶの存在する当年枝でヤナギルリハムシなどが増加すると、今度は間接的にヤナギマルタマバエに何らかの影響が及ぶ可能性があります。そこで本研究ではNakamuraらと同様の材料を用いて、植食者群集における植物の食害誘導反応が介在する間接効果の連鎖と、その連鎖によるフィードバックの検証を目的として調査を進めていきたいと考えています。

(研究キーワード:虫こぶ・間接効果・フィードバック)



群集と生態系における、寄生者の宿主操作が持つ意義の考察

福井 尭 (M1)

近年になってマクロ生物学の話題となっている題材として、寄生者の宿主操作(parasite manipulation)が挙げられる。これは寄生者が寄生することで宿主の行動や生理機能を変える現象のことである。これまでに多くの研究がparasite manipulationに関して行われてきたが、そのどれもがこの現象の進化的な意義を明らかにするためのものであった。つまり、parasite manipulationによって寄生者がどれだけ繁殖に対しての利益を得ているのか、またどうしてこのような形質を持つようになったのかという研究ばかりがなされてきたのだ。

しかし、parasite manipulationという現象は宿主のもとの性質を変化させてしまうわけだから、その宿主が含まれている群集や生態系においても寄生による影響が生じるはずである。本研究の目的はそういった寄生者による宿主操作によって、どのような効果が群集や生態系に与えられるのかを解明し、寄生者の生態学的な位置づけをより深く考察することである。修士課程では寄生者としてハリガネムシを、宿主としてカマキリを用いて実験・研究を進めていく。

(研究キーワード:寄生者による宿主操作、形質を介した間接効果、栄養カスケード)







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