京都大生態学研究センター

menu

第289回 2017年9月15日(金)14:00~17:00

修士課程2回生 永田隼平

2017年9月15日の生態研セミナーでは、Richard Karban教授 (Visiting Professor, Center for Ecological Research, Kyoto University / Department of Entomology and Nematology, UC Davis)と高林純示教授 (生態学研究センター)が講演された。

 Karban教授のタイトルは”What Can Plant Biologists Learn About Communication From Animals? (植物生物学者がコミュニケーションについて動物から学べることは何か?)”で、1. 植物間のコミュニケーションと、2. 植物と動物の違いとそれぞれのコミュニケーションについて話された。
 1. 枝の間隔を20 cmとしたヤマヨモギ間の野外研究により、植物間コミュニケーションでは被害植物由来の揮発性物質が使われていることがわかっている。植物間のコミュニケーションの効率は、効果的な順に、遺伝的に同一の組織間、遺伝的に関連のある近縁者間、同じケモタイプ間(ツジョンタイプ、カンファータイプなど)、そして局所的に近距離に生息している同種個体間で起こっている。ここで、聴衆から演者へ質問タイムが設けられた。”What would you like to know about communication?(コミュニケーションについて知りたいことは何ですか?)”というお題に対して、3人ほどに分けられたグループ内でディスカッションして決めた質問を演者に答えていただくものであった。コミュニケーションの起源、コミュニケーションに揮発性物質を使う理由、地中や水中でのコミュニケーション、開花などの防御以外のためのコミュニケーションについての質問があり、すべての質問に真摯に答えていただいた。2. 動物と植物の違いとして演者は、移動性、構造、被食に対する耐性の3つを上げていた。動物は高い移動性を持ち広いエリアの情報を収集できるためリスクを回避するが、植物は根をはり局所的な情報しか得られないために防衛物質等の二次代謝物質の分布を変える。動物は、例えば目のように特定の数の機能分化した特定の器官から構成されているのに対し、植物は葉やシュートといった機能分化していない単位のモジュール構造の繰り返しで構成されている。このモジュール構造の最適配置により、植物は光合成や呼吸など様々な生理反応を効果的に実現している。また、植物は摂食されても致命的な状況にはならず、動物よりも被食に対する耐性が高い。これらの特徴的な差異は、局所的かつ被害後に放出される揮発性物質による植物特有の防衛を一部説明するものであろう。
 実際に目には見えない植物間のコミュニケーションについて動物と植物の違いを踏まえた解説があり、また生態学の中でも忘れてしまいがちな死なない捕食―被食関係という関係を再認識した講義であった。

 高林教授のタイトルは”A novel enzyme secreted from spinnerets of feeding silkworms hampers green leaf volatile production in mulberry leaves (採餌するカイコの吐糸腺から分泌される新規の酵素はクワの葉における緑の香りの生産を妨げる)”で、採餌する植食者による植物の誘導間接防衛の妨害について話された。植物は食害への応答において、植食者の肉食性天敵を誘引する緑の香り(GLVs)や揮発性テルペノイドなどの揮発性有機化合物を発する。誘引された天敵は採餌している植食者を攻撃するため、植食者は天敵に見つからないように進化してきているはずである。その一つとして、天敵を誘引する揮発性物質の生産を抑えることが考えられる。演者は、この抑制をクワ植物とカイコと捕食性寄生バエ の3栄養段階系において明らかにした。まず、カイコが採持中に吐糸線から糸を出していることに注目し、カイコの吐糸腺を焼き切ると緑の香りが減ることを実験で確認した。このときカイコは、糸と一緒に新規の酵素を出していた。さらに化学的な分析を行い、リノレン酸からGLVsの合成経路の中間代謝物が酵素によって不活性な物質に変化することでGLVsが減少することを明らかにした。また、その酵素の機能はGLVsの抑制に特化していること、抑制によりカイコが捕食性寄生バエに見つかりにくくなったことも確認した。植食者が植物の誘導間接防衛に対抗するように進化しているはずであるという当然の考えから、カイコの採餌時の行動に疑問をもち、これほどまで面白い研究を行う演者らの研究グループには感服した。

 今回の生態研セミナーは、実際に機器分析などを行わないと理解できない化学的レベルでの現象についての講演であり、生態学における化学物質の重要性を認識するいい機会であった。

第288回 2017年7月21日(金)14:00~17:00

修士課程1回生 福田恭平

今回の生態研セミナーでは,京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸内臨海実験所の後藤龍太郎さんと京都大学大学院人間・環境研究科の金尾太輔さんにご講演頂いた。

 後藤龍太郎さんには「住み込み共生する二枚貝の進化と適応」という演題でウロコガイ科の二枚貝とシャコの共生を主な題材としてフロリダでの調査の様子や共生二枚貝の多様性・適応・進化についてご講演頂いた。ウロコガイ科の二枚貝は他の動物に居候する二枚貝で様々な生物に居候することが知られています。

 フロリダの調査に関してはアメリカ大陸沿岸に生息するサメハダトラフシャコと共生するウロコガイ科のヨーヨーシジミとParabornia属についてご紹介して頂いた。サメハダトラフシャコと共生するヨーヨーシジミは6種が知られていて,ひも状に特殊化をとげた足を有し,巣穴の壁面に付着するための適応だと考えられている。一方でParabornia属は常にシャコの腹部側面に付着しており,系統解析によってヨーヨーシジミから進化して巣穴共生者から体表共生者へ進化したことが明らかにされた。この進化によって発達した触手や特殊化した足は退化し,内在化した殻は露出し,宿主の体表への進出によって巣穴共生への適応的形質や消失が起こった。また二枚貝の足の部分には粘液を出す器官があるので一度シャコから外れても再び付着することが出来る。

 共生二枚貝の多様性・適応・進化に関しては,共生生活性や独立生活性のさまざまなウロコガイについてご紹介して頂いた。後藤さんはこれまでに甲殻類,ナマコ,ホシムシ,ブンブクなど他にも様々な生物と共生する30種のウロコガイを発見された。独立生活性のウロコガイは共生性のウロコガイを祖先にもち,共生生活性から進化することによって色が派手になるなど、さまざまな形態的な特殊化が起こったと考えられている。共生生活性は宿主やその周辺を住処とし小さく目立たないが,独立生活性は岩の裏などを住処とし自衛の手段が必要である。襲われると先端がこぶ状の触手を伸ばす種は,イソギンチャクに擬態しているのではないかということが考えられている。ウロコガイでは宿主生物の門をまたぐ寄主転換が頻繁に起きていて、これは多くの寄生生物では見られないパターンであるが、多くの寄生生物は宿主に栄養的にも依存しているのに対し,ウロコガイは濾過食であることが寄主転換の起きやすさに関わっているのかもしれない。

 同じ仲間の生物でも様々な共生様式や宿主が存在することを知れた。近年になって急速に新種が発見されているので,まだまだ未知の種が多く存在しているだろうと感じた。シャコの巣穴が深さ70cm,幅2mという大きさに驚いた。もう少し小さくした方がコストの面で負担が減るのではないのか?と思った。

 金雄太輔さんには「好白蟻性ハネカクシの多様性と進化」という演題でご講演頂いた。白蟻性昆虫は生活史の一部をシロアリ社会に依存する昆虫で,シミ目、甲虫目、ハエ目、カメムシ目、ハチ目、トビムシ目など、12目39科もの昆虫分類群より知られている。ハネカクシ科には好白蟻性ハネカクシが17族より650種以上が確認されていて、これらは主に熱帯地域に分布し,種レベルの寄主特異性をもつが、これまで不十分な種多様性調査,乏しい分類学的系統学的知見などから研究があまり進んでいない。

 シロアリハネカクシ亜族にはカブトガニ型と腹部肥大型があり,前者はオオシロアリ,後者はアシナガシロアリをそれぞれ寄主としている。腹部肥大型種はマレー半島,ボルネオ島,スマトラ半島に分布し,アシナガシロアリと一緒に行進していることがあるため,行動観察によって採集できる。これらの種は系統解析(COI)によって 同種でも地域ごとに分化し,複数の隠蔽種が含まれていることが明らかにされた。現在,好白蟻性種のサンプリングを2.5倍に増やしさらに詳細な解析の準備をしている。

 排他的なシロアリ社会では巣仲間認識に体表化学成分が用いられており、同種でも異なるコロニーの個体同士では排除が起こる。ハネカクシはシロアリの体表化学成分を真似することで,寄主の巣仲間認識を誘う化学擬態を用いているのかという仮説をもとにシロアリの体表化学成分のGC/MS分析を行ったが,普遍的に化学擬態を用いてはなさそうであるという結果となった。このほかにも導入昆虫によるコロニー特異性が調べられているが,化学擬態を支持する結果や,そうでない別の戦略を持っているかもしれないという仮説もある。

 ハネカクシが寄主の巣で交尾を行うことは非常にリスキーなことだと思った。今後,GC/MS分析で同定された31種の化学成分の同定は非常に時間や労力のかかることだが,この解析を進めることでハネカクシとシロアリの関係性がより明らかにできる可能性があると思った。

第287回 2017年6月16日(金)14:00~17:00

修士課程1回生 武田和也

今回の生態研セミナーでは小林和也(京都大学フィールド科学教育研究センター)さんと庄田慎矢(奈良文化財研究所/ヨーク大学)さんにご講演いただいた。

 1.小林和也さん「身勝手な遺伝子が築く社会と群集」

 自然選択と性比: 自然選択は進化を引き起こす要因の1つであり、より多くの子孫を残せた個体の遺伝子が集団内に広まっていくことで、集団の遺伝的組成は変化していく。このことから一見自然選択は集団の成長率を最適化すべくチューニングするように思われるが、これは必ずしも正しくない。この1つの例が性比に関する自然選択である。一般にオスはメスに比べてより多くの配偶子を作ることができるため、1匹のオスは複数のメスの配偶子を受精することが可能である。したがって集団の成長率を最大化するためには、性比はメスに偏っている方が良い。しかしそのような条件下では、オスはメスに比べてより多くの子どもを作ることができているため、より多くのオスを産む個体はより多くの孫世代を生産することが可能である。したがって性比の偏りは減少し、最終的に1:1に落ち着く。実際に多くの生物で性比は1:1であり、種内での交配相手をめぐる闘争の結果、集団の成長率は必ずしも最適化されていないことがわかる。

 社会性昆虫の進化と血縁淘汰:このように自然選択は、一見不合理に見える進化を引き起こすことがある。こうした現象の最たる例は、社会性昆虫であろう。アリやハチなどのワーカーは、自ら次世代を生産すること無く集団のために行動するが、こうした行動は自然選択の概念からすると一見不合理である。これはダーウィンによる自然選択説の提唱以来の問題であったが、これを解明したのがハミルトンの血縁淘汰説である。ハミルトンは、自然選択は個体ではなく、遺伝子に作用し、次世代に残る遺伝子を最大化すると考えた。この考えのもとでは、近い血縁関係にある個体は自らと同じ遺伝子を共有している可能性が高く、したがって血縁者に対する利他行動は適応的であると考えられる。膜翅目はオスが1倍体であるという特殊な性決定様式を持っていることから、あるメス個体に対する血縁度は子どもで0.5、メスの兄弟で0.75と、メスの兄弟の血縁度の方が高くなる。したがって、自ら子どもを残すこと無くメスの兄弟に対して利他行動を示す膜翅目のワーカーは適応的であると言える。また、個体から見たオスの兄弟の血縁度は0.25であり、メスの兄弟の0.75と異なる。このことから、膜翅目の有翅虫の性比は1:1よりもメスのほうが多くなることが予想されるが、実際に複数の種において、有翅虫の性比はメスバイアスであることが実証されている。また、これは膜翅目の社会性昆虫において血縁淘汰が生じていることの間接的な証拠と考えられている。

 一方で、社会性の進化の要因としての血縁淘汰説の普遍性については現在に至るまで大論争が繰り広げられており、未だ決着がついていない。その背景には単純に集団を形成することによる利益を過小評価している、といった主張に加え、血縁淘汰は膜翅目には適応できるものの、性決定様式が異なるシロアリなどの社会性の進化を十分説明できていないといった問題がある。したがって2倍体生物において血縁淘汰がはたらいていることを示すことができれば、血縁淘汰説の普遍性について大きな示唆を与えることとなる。

 通常、2倍体生物においてはある個体から見た兄弟の血縁度は雌雄に関わらず0.5であることから、膜翅目におけるような、性比から血縁淘汰が機能しているかを判断するアプローチは適応できない。一方、ヤマトシロアリでは女王は単為生殖で増えるのに対し、ワーカーやオスは有性生殖で増えるという繁殖様式(AOS)が存在している。この様式の下では次世代の女王は創設女王のクローンであり、次世代の王は創設女王の息子であることから、代替わりが生じた場合、遺伝的には近親交配が生じることとなる。したがって子供世代の個体からみた血縁度は、オスの兄弟に比べてメスの兄弟の方が高いことになり、子どもでの性比はメスに偏ると考えられる。一方で女王も有性生殖で増える様式(=非AOS)のシロアリについては代替わりが生じた後も近親交配は生じないことから、性比は偏らないと考えられる。これを複数の種で検証してみたところ、確かにAOSの種では性比はメスに偏っており、非AOSの種では性比に偏りは見られなかった。また、AOSを行う種でも、コロニーの寿命が短く、息子世代に行く前にコロニーが解散するような種では性比に偏りは見られなかった。これらの実証結果はシロアリにおいても血縁淘汰がはたらいていることを示唆しており、血縁淘汰説の普遍性をサポートするものである。

 性比をめぐる種内競争が群集に与える影響:社会性昆虫の他に性比が偏る事例の1つに、局所的配偶競争がある。これはイチジクコバチや寄生蜂などで見られるパターンであるが、子どもが産卵された限られた区画内で成長、交配するような場合、オスは区画内のメスと交配できる最小限の頭数で良いため、性比が大きくメスに偏るというものである。これを植物に拡張し、パッチ状に分布し、同一パッチ内の限られた個体とのみ交配可能であると仮定したシミュレーションを行った。すると、個体のオス機能への投資は減少し、局所的配偶競争と同様のパターンが得られた。

 次にこれを他種系に拡張し、資源獲得能力に差がある2種が共存する状態で、同様にパッチ内の限られた個体同士でのみ交配が起こると仮定しシミュレーションを行った。すると、世代を経るごとに資源獲得に有利な種は頻度を増やし、不利な種は頻度を減少させていったが、ある程度したのちにその減少は止まり、その後両種は共存し続けた。すなわち、競争排除が生じなかった。これについては、以下のように解釈できる。すなわち、資源獲得に不利な種はパッチ内での個体数が減少することから、交配相手の限定が一層強まり、その結果メス機能への投資が上昇、結果として個体あたりの種子生産量が相対的に増加し、種全体の次世代の生産力が増加した。一方で資源獲得に有利な種ではパッチ内の個体数が増加した結果交配相手をめぐる種内競争の影響が強まり、オス機能への投資が増加した結果、個体あたりの種子生産量が相対的に低下し、種全体の次世代の生産力が低下した。結果として両者はある一定の頻度で平衡状態に達し、共存が実現した、と考えられる。これを資源獲得に差があるさらに多くの複数種で再現したところ、やはり同様の機構で共存が実現することがわかった。これは、オス機能には交配相手を巡って種内競争が作用する一方、メス機能は種内競争に加え、種子を介して種間競争も作用する、といった雌雄の機能にはたらく淘汰圧の違いによって、性比をめぐる自然選択が群集内での種の共存機構として作用している可能性を意味している。

 2.庄田心矢さん 「土器に残された脂質からせまる縄文海進期の日本海沿岸の食」

 導入:東アジアの土器と従来の土器分析 東アジアは東アフリカと並んで最も古い土器が出土する、土器の起源ともいえる地域であり、氷河期の狩猟採集時代の土器を得ることができる。これは、農耕、牧畜の発達後の時代の土器しか得られないヨーロッパには無い大きな利点であり、これらの分析によって狩猟採集時代の土器文化を知ることが可能である。また、出土する土器の頻度は最終氷期の終わりとともに急速に増加することが知られているが、この時期に土器使用に生じた変化も、こうした土器を分析することで明らかになる可能性がある。一方で、旧来の考古学では土器の形状や出土時代に基づく分類は非常に発展していたものの、それらの使用方法については研究が進んでいなかった。これまでに提唱された仮説にはドングリのアク抜き、貝の加工や調理などがあるが、いずれも十分な検証はなされていない。

 土器の使用方法を研究する1つのアプローチに、土器に付着した物質を分析する方法がある。Yoshida et al., 2013では、土器片の一部を削り取り、含まれる同位体を分析することで土器片の内容物を探るアプローチが利用されたが、その結果はどの食物とも一致しなかった。他の複数の研究も同様のアプローチで土器の使用方法の分析を試みたが、いずれも同位体分析の結果は特定の物質と一致しなかった。これについては、様々な食物を土器で加工、調理した結果、それらの物質が混ざって土器に付着したためだと考察されている(ごった煮仮説)。これらの分析の問題点は、同位体分析にバルク法を採用している点である。バルク法では、削り取った土器片全体の同位体比を分析することから、含まれる脂質やタンパク質、炭水化物などの有機物は混ざった状態で分析することになる。一方、これらの有機物はそれぞれ安定同位体比が異なっており、年代とともに劣化する速度も異なっている。したがって、これらをバルク法で分析した場合、もともとの有機物の同位体比の違いが劣化速度による成分比の変化によってマスクされてしまい、正確な結果が得られない可能性がある。したがって、上記の研究結果も、こうした影響の結果、中間的な値が生じてしまった可能性がある。

 脂質を用いた分析と、その結果:こうした問題を解決する1つのアプローチが、特定の物質(ここでは脂質)のみを取り出して分析することである。土器から抽出した脂質を用いた分析には、大きく2つがある。抽出した脂質をGC-MSにかけて各成分を単離し、その中に含まれる、特定の生物を示す炭素骨格を持つバイオマーカーを調べる方法と、脂質のうちパルミチン酸とステアリン酸の同位体比を調べ、現生生物と比較する方法である。Craig et al., 2013は土器片の有機物について脂質のみを抽出して同位体分析を行ったところ、土器片の有機物は海産物由来であるとの結果が得られた。特定の成分に分析した結果、劣化速度などの影響を取り除くことができた可能性が高い。

 これらの方法を用いて日本海沿岸の狩猟採集時代の遺跡から見つかった土器片を分析したところ、バイオマーカー、同位体共に結果は水生生物の利用を支持していた。分析した遺跡は幅広い時系列を持つものや、植物片が共に出土した遺跡なども含むにも関わらず、これらの土器は水生生物のみを支持している。また、脂肪酸のうちの1つであるフィタン酸を用いた分析の結果も水生生物由来を支持した。このことは、時間的、気候的な変化や食物のレパートリーに関わらず、日本海沿岸の狩猟採集時代には土器は水生生物の加工にほぼ限定的に利用されていたことを示している。

 同様の手法を用いた分析の結果、カナダなどの他の地域や、より新しい時代の土器からも水生生物由来の脂質が見つかっている。一方で、東南アジアからはC3植物の利用を示す土器も見つかっており、イギリスのストーンヘンジの土器からは反芻動物の利用が支持されている。日本海沿岸などの広い地域で水生生物の加工調理に土器が利用されていた一方で、他の食物の加工に用いていた地域も存在するようだ。また、弥生時代の土器の分析の結果からは、穀類の利用が支持された。このことから、縄文時代と弥生時代で、土器利用の文化においても違いが生じていたことがわかった。今後、同様の手法を用いたさらなる分析によって、時間的、地域的な土器使用文化の違いや変遷が明らかになる可能性がある。

第286回 2017年5月19日(金)14:00~17:00

修士課程2回生 永田隼平

2017年5月19日の生態研セミナーでは、Karel Simekさん (Biology Centre AS CR, Hydrobiological Institute)とLuisa I. Falcon Alvarezさん (Visiting Professor, Center for Ecological Research, Kyoto University / Professor, Universidad Nacional Autonoma de Mexico)にご講演いただいた。

 Karelさんのタイトルは ”Community dynamics of bacteria and bacterivorous flagellates modulates carbon flow to higher trophic levels in freshwater ecosystems” で、和訳すると「細菌と細菌食鞭毛虫の群集動態が淡水生態系における高次の栄養段階への炭素フローを調節する」となる。微生物生態学の現状や課題について、様々な研究を持ち出して説明してくださった。従属栄養性の鞭毛虫を主とする小さな原生生物は水域生態系での分解された有機物質と細菌とグレイザーをつなぐ主要のリンクであると考えられていること。高いスループットの分子技術が提供する細菌プランクトンの群集構成への詳細な洞察が、特定の細菌グループの最終的運命を考慮する我々の知識にかなり反するという矛盾が生じていること。ボトムアップとトップダウンが引き起こす動態を知らないことによる淡水の細菌プランクトンの特定の系統の高い比率の発見はこれらの細菌グループが急速に成長したり高次の栄養段階への炭素フローにおける重要な役割をなしたりすることを示さないかもしれないこと。鞭毛虫の細菌への選択的なグレイジングは細菌プランクトンの群集構成を調節すると提示されているが、鞭毛虫捕食者-細菌被食者の関係は被食者群集の変化が鞭毛虫捕食者群集の極めて早い変化を誘導するかもしれないぐらいとても柔軟であり、その逆も然りであるということ。ある種の鞭毛虫の急速な増加が異なる細菌を食べることにより発見されるとき、その増加は急速に増加する細菌プランクトングループの倍加時間に強く一致すること。特に、異なる細菌プランクトン種は鞭毛虫群集に対する異なる食物品質効果を示しそうで、それは鞭毛虫の増加や群集動態、高次の栄養段階への炭素フローに影響すること。プランクトン環境における炭素動態についてのこれらの本質的側面についての知識はたいへん限られていること。などである。最後に、急速な細菌群集の遷移と続いて起こる鞭毛虫捕食者群集の強い連鎖を説明する遷移概念モデルを提案し、その連鎖は被食者利用率と様々な細菌から微生物食物連鎖への炭素フローを最適化することを示した。将来的には複数の単細胞レベルの応用を組み合わせて研究を進めたいとおっしゃっていた。。

 Luisaさんのタイトルは ” Biogeography and phylogeny of Synechococcus: Lake Biwa and Mexican lakes, home of sister” で、和訳すると「Synechococcusの生物地理と系統発生:琵琶湖と、姉妹群の生息地であるメキシコの湖」となる。まず、シアノバクテリアについて説明くださった。地球上でもっとも多様で古い細菌グループであること、光合成により地球の一次生産に著しく貢献して窒素固定により窒素循環にもある程度貢献すること、水域生態系の共通構成種であること、地球の二酸化炭素固定のおよそ40%の原因であることなどが特徴である。遺伝子スケール解析によると、シアノバクテリアの放散初期に酸素発生型光合成が進化したことが示される。酸素発生型光合成における電子供与体として水分子を用いる能力は結果として自由酸素を生じさせ、その能力はたぶん27億年前までに生じていたらしい。次に、Synechococcusについて説明くださった。湖と海洋に共通して存在するピコシアノバクテリアの優占属であること、Synechococcales目は単系統ではなく単細胞型や糸状型を含む多様なグループであること、Synechococcales目は壁チラコイドをもつこと、生態学的な関連は広く知られているが系統発生に関する疑問は不確かなであること、地域特有のSynechococcusが存在する一方で属の他のメンバーは塩分を含む環境パラメータに関係すること、ある種が広く分布している一方で他の種は抑制されていることなどである。その後、Synechococcusに関する最近の進展についてお話しされた。Synechococcusが海洋生態系や表水層塩水生態系、淡水生態系への特異性をもつクレードを成すこと、琵琶湖のSynechococcusの単離株はメキシコ中部にあるAtexcac湖の株に密接に関係していること、両方の湖は淡水かつリン制限環境であること、琵琶湖/Atexcac湖クラスターは亜高山湖や高標高のパタゴニア地方の湖にも関係があること、微生物の生物地理的パターンと密接に関係のあるピコシアノバクテリアからの適応機構の両方を研究する素晴らしいモデルとなるSynechococcus株が存在することなどである。さらに、多様性に関係する生態学的パラメータと同様に、グループにおける系統的関係を説明することに役立つモデルとして異なる生態地理的地域由来のSynechococcusを扱うために提案された手法についての議論へと続けられた。その研究モデルは、琵琶湖由来のSynechococcusとメキシコの湖由来の他の株であった。研究の動機は、非常に異なる環境から回収された同様のSynechococcusの株の裏側にある生活史を理解したいということであった。研究の目的は、離れた環境由来のSynechococcusの共起を説明することに貢献する要素が何かということと、生物地理的に離れた地点間で共有されている細菌プランクトンの集合体の他の構成種も存在するかどうかを理解することであった。Synechococcusの近隣者が同じであれば同様の群集が構成されると、私は理解した。

 お二人とも水域微生物について多方面からのアプローチによる知見をまとめ、洗練された議論をされていた。水域の微生物生態学に関して知識がない私にとってはかなり難度の高い講演であり、生態学の高い多様性と奥深さを改めて実感した。。

第285回 2017年4月21日(金)14:00~17:00

修士課程1回生 湯本原樹

今回の生態研セミナーでは本センターの東樹宏和氏と宇野裕美氏に講演して頂いた。

 東樹氏からは「誰も知らない生物間相互作用を求めて」というタイトルで、次世代シークエンサーを使用した未知なる生物間相互作用の研究について講演して頂いた。その際、最初に「科学的天才は絶滅した」という論文を紹介された。これは研究が個人単位から集団単位で行うようにシフトしてきたことを示す。これを示すように同氏は自身の研究の推移を述べられた。まず、ゾウムシとツバキの軍拡競争について。これはゾウムシとツバキという二者間の相互作用を研究したもので、共進化の平衡点は環境によって異なり、共進化動態は数km単位で異なるという結果を得た。次に三者以上からなる複雑な研究を展開した。ゾウムシは体内に菌細胞を形成し、そこに共生細菌を集めている。この共生細菌は一次共生細菌と二次共生細菌があり、二次共生細菌は寄主植物により変わる。この共生菌叢を形成することで食物である植物の二次代謝物を分解し、適応度を増加させているという結果を得た。最後に自然史からだけでなく異分野を融合することにより、生態系全体を網羅する相互作用の研究について示された。これは次世代シークエンサーからDNA配列を得て、データーベースを経由することで生物種を特定するプログラムを作成し、まとめて解析するというものだ。これにより、地下生態系の解明に着手した。この結果から、共生微生物叢にはコアとなる微生物がいてこれが共生する微生物叢を決定している可能性が出てきた。これを用いて、農業生産や生態系保全に関するブレークスルーをもたらす可能性が出てきた。このように異分野を融合して、「説明する生態学」から「描く生態学」へと生態学が各分野のリーダーシップをとることを同氏は期待されていた。

 この講演を聞いて、私は自身の生態学への向き合い方との類似点を見いだした。一つ目は今や、生態学は自然史単体で解決できるものでは無く、個々の分野を組み合わすことでのみ達成できるということ。つまり、異分野を融合することが不可欠であるということである。二つ目は生態学研究により解明されたことをもっと応用すべきであるということである。例えば、遺伝的多様性を無視した生物導入、根拠のない生物の保護や駆除等は生態学的知見を応用することで是正することが可能であるはずだ。このように生態学をより一層、応用していくことが生態学の本来持つべき役割であると考えている。

 宇野氏からは「複雑環境の中の食物網」というタイトルで、複雑な自然へのアプローチについて講演して頂いた。同氏はAllen’s paradoxから川の生態学に興味を持った。そして、フラックス測定や生物多様性指標といったものを調べていたが、ナチュラリストとして、生物の「なまなましさ」を観察できないことに対するフラストレーションを感じていた。そこから編み出した手法が、自然を観察し、重要そうな要因を抽出し、操作実験を行うといったものである。これに組み合わされたのが同位体分析および大規模屋外実験である。この手法を用いて、カゲロウの生活史を追った。その結果、カゲロウは幼生時、川の本流で生活し、産卵は川の支流で行い生活をおえることがわかった。さらに突き詰めると、カゲロウは温度による表現型可塑性をもつことが示された。川には時空間的に様々な環境を持ち、この空間異質性により、カゲロウの羽化時期も差がでる。このことにより、カゲロウの捕食者は栄養転換効率を上げ、川全体の生産量を増加させ手いることがわかった。同氏はこのような空間的異質性にはまだ未知の多くの生物が関与していると考えていて、森と川のリンク、海と川のリンクを包括的に調べていきたいようである。また、甲殻類と昆虫の間接相互作用にも言及したいと考えているそうだ。

 この講演をきいて、私は幅広い視野で生態学研究を行う重要性を感じた。まず、観察の中で重要なものを見出す博物学的視野が必要であり、それを分析する実験的視野も必要となる。さらに川だけでなく、海や森を川とリンクさせるような地理的な視野も必要であることを感じた。